ハーバードは日本企業から何を学ぶか 徹底取材で探る『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』

「奇跡」の高度成長期に注目

こうした問いの深掘りを通じて、ハーバードが日本から学ぼうとしているものの核心に迫っていくのです。著者は大きくまとめてこのように書きます。

取材を進める中で浮かび上がってきたのは、ハーバードの教員や学生が、リーダーとしての「基本」、良き地球市民としての「基本」を日本から学び取ろうとしていることでした。インタビューの最中に「日本人にとっては当たり前のことかもしれませんが、これはリーダーとしてとても大事なこと」「日本企業の事例はものすごく経営の本質を考えさせられる」といった言葉を何度聞いたかわかりません。
(はじめに 3ページ)

全体は5つの章に序章と終章を加えて構成されています。第1章はイノベーション。世界のビジネスジェット市場に衝撃を与えたホンダジェット、コマツの建機遠隔監視システム「コムトラックス」、半導体製造装置メーカー、ディスコの個人別管理会計システムによる組織運営が取り上げられます。

第2章は歴史。日本の高度経済成長を分析した『日本:奇跡の年月』というベストセラー教材とチキンラーメンの安藤百福氏の教材からハーバードの学びを読み解きます。第3章が起業家精神。宇宙ごみの除去サービスに挑むベンチャー企業、アストロスケールの資金調達と、ベンチャー精神を保持したまま世界に打って出るリクルートホールディングスの教材がテーマです。

第4章は戦略・マーケティング。先ほど紹介した亀田製菓のほか、AKB48グループの海外進出の教材を素材に考えます。第5章がリーダーシップ。ソニーとトヨタの教材が取り上げられるほか、東日本大震災のとき東京電力福島第二原子力発電所をメルトダウンから救った「チーム増田」の事例を取り上げて、ハーバードが学ぼうとしているリーダーシップについて深掘りしていきます。

「日本の強み」の本質とは

終章は「日本の強みを自覚せよ」と題して、ハーバードビジネススクール教授陣による日本の強みの分析を紹介しています。日本経済はこの30年、停滞の中にあると語られることも多く、最近は暗い見通しを声高に主張する悲観論も目立ちます。そんな中、希望ある見通しが語られているのは、これからの日本を考える心強い指針になります。

終章にあるラマナ・ナンダ教授の言葉を紹介しましょう。

日本では、多くのイノベーションが伝統的な大企業から生まれています。特に、鉄鋼、自動車、通信分野の技術革新はめざましいものです。
日本企業の歴史を改めて振り返ってみて、「イノベーションを起こすにはスタートアップ企業が起業(ENTRY)と売却(EXIT)を繰り返すしかない」というのはアメリカ中心の偏った見方なのかもしれない、と思うようになりました。
(中略)
イノベーションの目的は世界をよりよくすることです。人々がよりよい生活を送るために役立つ製品やサービスを生み出すことです。そうであれば、その目的を実現するために、日本は日本なりの方法でイノベーションを起こしていけばいいのではないかと思います。
(終章 日本の強みを自覚せよ 278~279ページ)

ハーバードの学びを知ることで、もう一度自らの足元を見直してみるのも、危機の時代を生きるビジネスパーソンには必要なことかもしれません。

NIKKEI STYLEでは、本書のもととなったインタビューをシリーズで公開しています。教授陣へのインタビュー「ハーバードが学ぶ日本企業」、学生へのインタビュー「ハーバードで学ぶ日本」、トヨタのAI開発トップらへのインタビュー「トヨタウェイは世界を変えたか」の3つのシリーズです。関係者の生の言葉も合わせて読めば、ハーバードの学びをより立体的に知ることができるでしょう。

◆編集者からひとこと 日本経済新聞出版・雨宮百子

本書は、今年の4月に発売する予定でした。しかし、校了をした直後から緊急事態宣言がでるかどうかの議論に入り、結果として刊行を遅らせることにしました。先行きが全く見えないなか、いつになったら刊行できるのか不安に思う日々でしたが、解除となったタイミングで刊行することができました。

著者は数々の書籍を出版していることで有名ですが、今回の書籍は、2016年に刊行された『ハーバードでいちばん人気の国・日本』の続編となっています。ハーバードがどのような日本企業になぜ注目しているのか、事例とともに紹介しました。困難な時期にこそ、日本企業の強みを改めて見直してみるのはいかがでしょうか。

一日に数百冊が世に出るとされる新刊書籍の中で、本当に「読む価値がある本」は何か。「若手リーダーに贈る教科書」では、書籍づくりの第一線に立つ出版社の編集者が20~30代のリーダーに今読んでほしい自社刊行本の「イチオシ」を紹介します。

ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか (日経プレミアシリーズ)

著者 : 佐藤 智恵
出版 : 日本経済新聞出版
価格 : 935円 (税込み)

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