ガーディアンシステムを開発するにあたって、私たちが考慮するのは「人間が事故を起こさないようにするために、機械はどういう手助けができるだろうか」「もっと楽しく運転をしてもらうためには、どういう機械を開発したらいいか」といった点です。その中心にあるのは常に人間です。

ロボティクスの分野の研究についても同じことがいえます。多くの企業は「人間がこれまでやっていた仕事をそっくりそのままロボットにやってもらおう」と考えています。しかし私たちは「どのような技術を開発したら人々にもっと生きがいをもってもらえるか」を考えます。

私たちの目標は身体的な動きに不自由を感じている高齢者の助けになるような装置やロボットを開発することです。身体的な不自由があっても「自分たちはもう社会の役に立たない」などと思わず、生きる目的や希望をもってもらえるような技術を開発したいと考えています。高齢者の能力を増幅させるような技術を開発できれば、「まだまだ社会に貢献できる」と生きがいをもって生活してもらえるはずです。

「心を動かす」「感動する」まで考える

佐藤 人間の能力を増幅させるとは、いわゆる身体能力を意味しますか。それとももっと広い意味での能力を意味しますか。

プラット 人間の持つすべての能力を増幅させたいと考えています。私たちはこれを「知能増幅」(Intelligence Amplification)と呼んでいます。私たちの研究目的は自動車や機械の開発だけに限りません。たとえば物質科学を専門に研究する学者が新たな素材を発見したり、新たな製造方法を開発したりするために役立つAIシステムなども研究対象としています。これらは直接的にモビリティに関わる技術ではありませんが、人間の仕事を手助けする技術です。

豊田社長は「『Move』の意味は物理的な動きに限らない。『心を動かす』『感動する』とう意味も含まれる」と話しています。

社会の一線から退いた人たちの心を動かすにはどうしたらいいか。その答えは「まるで若返ったような感覚になってもらうこと」です。もしタイムマシンがあって20年前に戻ることができれば、再びワクワクするような毎日を送ることができるでしょう。私もずっとタイムマシンをつくりたいと思っていましたが、現代の技術ではつくることはできません。だからこそ私は今、タイムマシンと同じような効果をもたらすマシンの開発に取り組んでいるのです。

例えば、義足をつければ、再び歩く能力を取り戻せます。それと同じように高齢者の能力そのものを取り戻せるようなマシンをつくれないだろうか。若い頃に戻ったと思えるようなマシンをつくれないだろうか。このような技術を開発するのに役立つ研究をすることこそ、TRIの使命だと思っています。

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ギル・プラット Gill A. Pratt
トヨタ・リサーチ・インスティテュート最高経営責任者(CEO)。トヨタ自動車エグゼクティブフェロー(執行役員)。専門分野はロボット工学および神経形態学的システム。ロボティクスやAIが社会にもたらす影響についても研究。1990年マサチューセッツ工科大学博士課程修了(PhD)。マサチューセッツ工科大学准教授、オーリン工科大学教授、同校副学長等を歴任した後、2010年アメリカ国防総省国防高等研究計画局(DARPA) 国防科学戦術技術室プログラム・マネージャーに就任。2015年トヨタ自動車入社。以降、同社にて様々な要職を務める。

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