デジタルツインでの活用を視野に

佐藤智恵(さとう・ちえ) 1992年東京大学教養学部卒業。2001年コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。NHK、ボストンコンサルティンググループなどを経て、12年、作家・コンサルタントとして独立。最新刊は『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』。

佐藤 「人間の行動を予測するAIシステム」は具体的にどのように活用されていくのですか。

プラット ここでは2つ事例をご紹介しましょう。

1つめがウーブン・シティ(トヨタが静岡県に建設する未来志向の実証都市)で実証しようとしている「デジタルツイン」(リアルの世界から収集した様々なデータをコンピューター上で双子のように再現する技術)における活用です。デジタルツインをつくる上で難しいのは人間の行動を予測することです。どのようにしたら人間の行動を予測するための最適なモデルをつくれるのか。デジタルツインの人間がそれぞれ別々の行動をとったら、シミュレーターは何を基準にどのように決断すればいいのか。これらの問題に対する答えは「誰もわからない」です。

そこで私たちは「人間が異なる事象にそれぞれどう反応するのかをコンピューター上で再現するためにAIシステムを活用できないだろうか」と考え、「人間の典型的な行動を予測するAIシステム」を今、まさに開発しようとしているのです。

もう1つが政治的な決断における活用です。このようなAIシステムは政治の世界でも活用できると期待しています。人類は洞窟に住んでいた原始の時代から、「BOGSAT(多くの人が寄り集まって協議すること)」によって様々な決断を下してきました。この方法は現代も変わっていません。これよりもよい決断方法はないだろうか。あるいは、人間とAIシステムが本質的に協力しあってよりよい決断ができないだろうか。こうした問題に答えるべく、日々研究を重ねているのです。

目的は人間の能力を増幅させるモノをつくること

佐藤 TRIの研究にもトヨタウェイの「人間性尊重」を反映されているのですか。

プラット トヨタは人間と機械はパートナーだと考え、独自の考え方で「人間性」をとらえています。私たちの目的は、人間の代わりとなるモノをつくるのではなく、人間の能力を増幅させるためのモノをつくることです。

トヨタ生産方式には2つの柱があります。1つは「ジャスト・イン・タイム」であり、もう1つは「自働化」です。自働化の本質は「機械化によってすべてを自動化することをめざさないこと」です。豊田佐吉は人間がいなくても動く織機をつくろうとしたわけではありません。トヨタは「機械をつかって、いかに人間の能力を増幅できるか」を考える会社です。そしてこの自働化の考え方はTRIにも大きな影響をおよぼしています。

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