2020/7/25

さらに、たとえ臨床試験をすべてパスしたワクチンでも、効き目に違いが出てくることがある。その理由ははっきりしていないが、標的となるウイルスに本来備わっている要素、例えば変異する傾向や、体内でどう増殖するかなどに加え、人間の自然な免疫系がどう作用するかといったことも関係するのかもしれない。

効果が高いことで知られているワクチンのひとつに、ポリオの不活化ワクチンがある。米疾病対策センター(CDC)によれば、3回の接種でその予防効果はほぼ100%とされている。麻疹(ましん)ワクチンも、1回の接種でおよそ96%の予防効果が得られる。

その他のワクチンは、予防効果がそこまで高くないまま実用化されている。インフルエンザウイルスは毎年のように変異し、毎年ワクチンを接種しなければならないが、罹患リスクを40~60%抑えるだけの効果しかない。

マラリアワクチン「RTS,S」にいたっては、わずか3分の1しか発症を予防する効果がない。それでも、マラリアが蔓延している地域では選択肢のひとつとして有望視されている。マラリアで死にいたるのはほとんどが幼い子どもで、3分の1でも救えれば目覚ましい成果だと話すのは、米メリーランド大学ボルチモア校医学部ワクチン開発センターの小児感染症専門家マシュー・ローレンス氏だ。

新型コロナウイルスに関しては、WHOが4月に示したように、高齢者を含め少なくとも人口の70%に対して効果を見込めるワクチン候補が理想的と言えるだろう。6月28日には、米国立アレルギー感染症研究所所長のアンソニー・ファウチ氏も、70~75%でも甘んじて受け入れるだろうと発言した。

一方、6月30日に、ワクチンを承認する米食品医薬品局(FDA)は、臨床試験における有効率の最低ラインを50%とするという指針を発表した。一部の研究者たちは、この指針に納得していない。「50%なんてひどすぎます」と、カナダのゲルフ大学オンタリオ校獣医学部のウイルス免疫学者バイラム・ブライドル氏は不満をあらわにした。「このパンデミックを終わらせるには、集団免疫を獲得する必要があるんです」。そのためには50%しか効かないワクチンではまるで足りないと、ブライドル氏は指摘する。

別の専門家は、どんなワクチンであっても、それは社会的距離の確保やマスク着用などと合わせたウイルス拡大抑止への多面的な取り組みの一環にすぎないと考えている。

免疫学者たちは、過去の経験から、新しいワクチンにはかなり神経質になっている。下痢を引き起こすロタウイルスの予防に初めて承認されたワクチンは、1999年に使用が中止された。腸の一部が別の部分に入り込んでしまい、死にいたる可能性があるという腸重積症がワクチンと関連付けられたためだ。重篤だが極めてまれなこの副反応は、治験段階では報告されていなかった。

もっと最近では、09年に豚インフルエンザワクチン「パンデムリックス」が、突然睡眠状態に陥るナルコレプシー(過眠症)を引き起こす恐れがあると、ヨーロッパで報告された。

官民共同でワクチン開発の加速化を支援するヒューマン・ワクチン・プロジェクトの社長兼最高経営責任者を務めるウェイン・コフ氏は、「小規模の治験では、重篤な副反応が見られることはめったにありません」と話す。大人も子どもも、世界中で認可されたワクチンを毎年何百万本と接種しているが、重篤な副反応が出ることは極めてまれだ。

モデルナの第1相試験では、45人の被験者のうち4人が著しい副反応を示した。そのうちのひとりの男性は、高熱を出して意識を失った。研究者の間では、このようなmRNAワクチンは免疫系を過剰に刺激する場合があることが知られていた。また、重い副反応を示した4人のうち3人は、治験で最も多い量を投与されていた。

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ワクチン接種への理解を得ることも重要
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