他からの“目”って大事だなと

「今回は弦のアレンジだけですが、青弦さんにやってもらったことで、自分が思う倍くらい曲が良くなり驚きました。海外のヒットチャートを見ても、プロデューサーを入れていない人のほうが今は少ないくらいで。外の人の目って大事だなと改めて痛感しました。

今回の作品で『いい塩梅が見つけられた』と思います。商業音楽と、自分がやりたいこと、バンドなのでみんながやりたいことの折衷案というか。そのバランスの取り方が難しいんですが、今のゲスはそれが自由にできてる。以前はもっと、ポップであり続けなければいけないとか、こういうものが求められているとか、縛られていました。もしゲスしかやってなかったら、もっとあがいていたかもしれない。けど今は、自由にやっていいと思えるし、ポップやアート性を求めて極端に走ることもありませんね」

より良い作品にするため、様々な選択肢を用意し、ときに他者に委ねる。トータルプロデューサーのように物事を俯瞰する意識は、ここ数年、川谷が心掛けてきたことだという。

ストリーミングの広がりや、SNSで思いがけないヒットが生まれる時代。それにいつでも呼応できるようにするため、広い視野に立ち、音楽の精度を上げていく必要性を痛感しているようだ。竹内まりや『プラスティック・ラブ』(84年)が、近年YouTubeで2400万回再生され、世界的なヒットになったことで、さらにその思いを強くしたという。

「届けるところを限定しない、間口を広い作品にしたいという思いがあるんです。今回のアルバムは、全部がそれをできたわけじゃないけど、その入り口というか、自分の中で光が見えた。僕を含めて多くのミュージシャンは、リスナーとして洋楽をよく聴くし、海外のサウンドへの憧れもあるけど、それをそのままやっても意味がなくて。山下達郎さんは、信念をもって自分が決めたところに突き進んできたから、近年の世界的評価につながっていると思うんです。山下さんがプロデュースした『プラスティック・ラブ』が世界的に流行したのを見て、なんとなく確信が持ててきたというか。

ストリーミングは新譜と旧譜の差がないので、あちこちでそういう現象は起きていますよね。ナタリー・テイラーの、15年リリースの『サレンダー』というすごいチルな曲が、コロナの影響で『Stay home music』として急に注目されたり。僕のindigo la Endでいうと、『夏夜のマジック』という5年前の曲が今、若い子たちの間ですごく聴かれていたりとか。CDのように、新譜がどんどん更新されていくものではないから、逆に希望が持てると感じています」

『ストリーミング、CD、レコード』
 ポップとアート性を兼ね備えた5thアルバム。スマートフォン向けアプリ『テイルズ オブ クレストリア』の主題歌『蜜と遠吠え』を含む全12曲を収録。全体的にキャッチーで親しみやすいが、躍動するリズムやシアトリカルなピアノ、エッジの利いたギターなど、サウンド面の聴きどころも多い。詩的な美しさを求めた歌詞にも注目。(ワーナー/豪華盤TypeA・CD&DVD9000円・税別)

(ライター 橘川有子)

[日経エンタテインメント! 2020年7月号の記事を再構成]

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