音数を厳選し、海外も視野に

本作はバンドアンサンブルを軸に据えながら、ブラックミュージックを起源とする、ふくよかでうねるようなグルーヴが躍動感を与えている。一方で、勢いのあるギターサウンドは抑え目になった印象を受ける。ストリーミングの視聴を軸に、世界に開かれたサウンドを目指した結果、洋楽的な香りをまとった、洗練された大人っぽい作品になったようだ。

「今作は、国内だけでなく海外の方にも聴いてほしいという思いがあって。ストリーミングで聴かれるのを前提に作った結果、ギターをかき鳴らすような楽曲は減りましたね。荒々しいギターサウンドが持ち味のバンドは、生では勢いを感じるけど、ストリーミングでは音が圧縮されるため、プレイリストに並ぶ他のジャンルの曲と比べると、しょぼく聴こえてしまう。他にも、今回はテンポが速すぎる曲は入れなかったり、音数を減らして隙間を作ることを心掛けました。もともと音数が多いバンドですが、引き算はすごく考えましたね。

もちろん、『フランチャイズおばあちゃん』や『透明な嵐』のように、ギターを前面に押し出した曲もあります。でも、『私以外も私』の大サビ裏でトリッキーなプレーをしているけど、あまりギターが主張しすぎない。あえてゲスでギターを前に出したいとは思わなくなったのは、僕がジェニーハイでギタリストに専念していることも理由の1つかもしれません。

それより、ゲスの肝はベースだと思うので、より骨太な感じになるよう意識しました。『哀愁感ゾンビ』のイントロは、特に気に入っていますね。1小節ごとに僕が考えたアイデアを弾いてもらったんですが、何でもこなせる休日課長が、途中で『ムリかも』と音を上げるくらいの難易度で。途中でエフェクターを踏んだりするので、1曲を通して弾くのは難しいんですよ。だけど、きっと練習してライブでは弾けるようになってるんじゃないかなと(笑)。

あと、『綺麗になってシティーポップを歌おう』では、ちゃんMARIがピアノでダララランと連打するのと同じものをベースで弾いています。そういうプレーは、たいていギターで弾くことが多いと思うんですが、今作ではそれをベースでやってみました。

ドラムに関しても、今年録った曲に関しては、かなり練り上げましたね。グルーヴを生み出しながら、安易に4つ打ちに逃げないようにするために、バスドラムの位置1つひとつを丁寧に決めてから録りました。ほな・いこかは、もともとタワー・オブ・パワーなどのファンクバンドが好きなので、自分らしさも出せたんじゃないかな。今作は全体を通して、メンバーそれぞれのプレーヤビリティーの高さを発揮できた1枚になったと思います」

『人生の針』ではストリングスアレンジを、チェリストの徳澤青弦に依頼。他のバンドでは珍しくないが、これまで完璧なまでに一貫して自前で帰結させてきた川谷にとって、制作へのアティチュードの大きな変化がうかがえる。

「これまで僕はプロデューサーを迎えたことが一度もなくて、弦も自分が歌ったものを、ちゃんMARIにシンセで弾いてもらって作っていました。それもいいけど、すべてが自分の想像力の範囲内で作れてしまうことが怖いなと思うようになって。自分の想像の上、その先を見てみたいと考えるようになりました。

31歳になったけど、僕の思っていた31歳ではないんですよ。もっといろいろできるはずだったのに、全然時が止まっているなと。自分ですべてやることで、時間をなくしていたのかもしれない。『ここは任せます』ってやっていたら、他にできたこともあったのかなと思ったんですよね」

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