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フリーマンさんの価値観や思考の優先順位を理解し、その発想を具体的な事業に落とし込める人材が社内に増えるといい、と井川さんは語る(写真:ブルーボトルコーヒー)

ベンチャー精神保ち、混沌とした市場の深掘り目指す

自分の感性を頼りに「おいしいコーヒーの提供」というミッションを追求し、独自スタイルのカフェの創造に専心する姿勢にはスタートアップ、ベンチャーの精神があふれている。そして4度の転職を重ねた井川さんの経歴も「スタートアップ」「ベンチャー」というキーワード抜きには語れない。

井川さんは「元来ビジネス志向ではなかった」というが、新卒で就職した大手人材サービス会社では留学・旅行サービスの子会社に配属され、新規事業の立ち上げに携わった。パリでの民泊事業や人材紹介会社の設立と、3年間奔走するなかでビジネス創造の醍醐味を知った。

「ゼロベースで新規事業を学びたい」と思い最初に転職したベンチャー育成会社ではPR業務を担当。次に企業支援会社のリヴァンプに入社して米プレッツェル専門店の日本法人第1号社員に。人材採用や資材調達など管理業務を幅広く経験した後、トリドールに移ってハワイの基幹店開設に携わった。そしてフリーランスのPRとして独立を考えていた矢先、日本進出を控えたブルーボトルからPR担当の人材として招かれた。

感性の人であるフリーマンさんは、思いつきを独特の言い回しで発言する。その難解な「フリーマン語」の真意をくみ取り、現場にわかりやすく伝える翻訳者の役回りを井川さんが果たすことも多い。「いろんな意味で“つなぐ”のは得意です」。これは未成熟な組織のPR業務に深く携わってきた経験のなせる業だ。

こんな個性的な創業者の理念を表現し続けるブルーボトルを巡り、衝撃的なニュースが17年に世界を駆け巡った。スイスの食品世界最大手のネスレが株式の68%を取得したのだ。巨大資本傘下で独特の世界観を守れるのか、と不安視する声もあがった。井川さんは「ネスレとの関係は出資当時から変わらず、日々の運営にはノータッチ」と話す。一般小売業への卸売りなど新規事業についての議論はありそうだが、今のところ大きな路線転換は見られない。ベンチャー精神もいまだ健在という。

井川さんが魅力を感じるブルーボトルらしさとは。「キーワードは、おいしさと、デザインと、イノベーション。あと正直であること。透明性を大事にしている会社なので」

「おいしいコーヒーの提供という理念はブレないまま、その表現方法を今も模索し続けています。フリーマンさんもミーハンさんも『イノベーション』という言葉を頻繁に使うし、クレージーなアイデアがほしいという意識はすごく高い。そしてたいてい、最初に声を上げるのはフリーマンさんです」

サードウエーブ後のコーヒー業界の行方はコロナ禍で予測困難になった。ブルーボトルは創業以来のベンチャー精神を保ちながら、混沌とした市場のさらなる深掘りを目指す。だが、ドラスチックな変革を資本の力に委ねる日が来る可能性も否定できない。フリーマン語を翻訳して日本とアジアのビジネスに反映させ、「ブルーボトルらしさ」の競争力を示すことが井川さんの役回りだ。その重責は、ベンチャー精神を愛する井川さん自身が深く理解している。

(名出晃)

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