アニメ『泣きたい私は猫をかぶる』 変身で知る優しさ
6月18日からネットフリックスで配信が始まったオリジナルアニメ映画『泣きたい私は猫をかぶる』。うまくいかない日常と思いを寄せる同級生の日之出との関係を、猫の姿になることでやり過ごそうする女子中学生のムゲ(無限大謎人間の略)と、猫をムゲだと気づかすに「太郎」と名づけてかわいがる日之出。そんな2人の恋とそれぞれが人知れず抱える思春期の悩みを描いたファンタジーだ。
制作は映画『ペンギン・ハイウェイ』で知られる気鋭のスタジオコロリド。監督には、アニメ界の重鎮・佐藤順一(『美少女戦士セーラームーン』)と、今作が長編監督デビューとなる柴山智隆の2人を据え、脚本には『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』など大ヒット作を世に送り出す岡田麿里。アニメを知り尽くす佐藤監督と柴山監督のフレッシュな感性が融合した、幅広い世代に刺さるハートフルな作品になっている。
もとは佐藤監督と岡田でオリジナル映画を作るところから企画がスタート。脚本の初稿を読んだ柴山監督は「最初から岡田さんらしいキャラクターの気持ちやワーっと心情を吐き出す瞬間のカタルシスがあった」と話す。一方で「無限大謎人間(ムゲ)と言われるくらい自由奔放な彼女がちゃんと愛されるキャラになるのか、初めは不安もありました」と振り返る。
「ムゲに関しては、まあギリギリうざいんですけど(笑)。だけど、うざいことをやる理由は何だろうと考えると、彼女は母親との関係が原因で自分が誰かに好かれる、愛されているということに対して自信がないんです。なので、日之出に対しても『嫌い』って言われてもしょうがない自分を演じている。要は心の保険をかけているんですが、その理由がちゃんとドラマのなかで明らかになっていくので、観客に伝われば嫌われることはないと思っていました」(佐藤監督)
作品の舞台は、柴山監督の故郷でもある愛知県の常滑市。伊勢湾を臨む自然に囲まれたこの街と架空の「猫の世界」がつながることで、ムゲと日之出の物語は大きく動いていく。「猫の世界は人間世界と切り離したくなくて、リアリティーみたいなものを意識しました。常滑である必然を出せたらと思ってイメージを出したら、佐藤さんに面白がっていただいて、膨らませていきました」(柴山監督)
今作は劇場公開予定だったが、新型コロナウイルスの影響で急きょ配信に。「作品のテーマ的にも、大事な人や身近にいる人たちの優しさに気づいていなかった自分に気づくという描写があります。周りの人たちとの人間関係を見つめ直すタイミングでこの映画を見てもらえたら、考えるきっかけになるのでとは思います」(柴山監督)
「伝えたいものは映画館でもスマートフォンでも、変わらず届く内容だと思っています。ぜひ皆さんに見ていただいて、心のケアになればうれしいです」(佐藤監督)
(日経エンタテインメント!7月号の記事を再構成 文/山内涼子)
[日経MJ2020年7月3日付]
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