人気の日本ワイン ワイナリーの名前で選ぶならココ
エンジョイ・ワイン(28)
今やワインショップや大型スーパーに行けば、専門コーナーもあるほど人気の日本ワイン。種類が多いだけに、どれを選べばよいか迷う人も多いだろう。そんな時、失敗が少ないのは、ワイナリーの名前で選ぶという方法だ。「このワイナリーのワインなら、どれを飲んでもハズレはない」。そんな日本のベストワイナリーを紹介しよう。
「これは言ってみれば、ホテルの格付けのようなもの。よいホテルというのは、最高級の部屋は言うまでもなく、スタンダード・タイプも十分にすばらしい。どの部屋に泊まっても満足感が得られる。そのワイン版が、これです」。そう語るのは、ワインバー遠藤利三郎商店(東京・墨田)オーナーの遠藤利三郎さん。遠藤さんの言うこれとは、先日開かれた「日本ワイナリーアワード2020」のこと。遠藤さんは審議委員長を務めた。
同アワードは今年で3回目。ワインのコンクールは通常、特定の年に特定のブドウ品種から造られた特定の銘柄が審査の対象となる。だが、同アワードは個々の銘柄ではなくワイナリーを審査対象としている点がユニークだ。
ワイナリーは、小規模なところでも、毎年、複数の銘柄を製造するのが一般的。違う種類のブドウを使い、醸造方法もブドウごとにや年によって変えたりする。そのため、同じワイナリーのワインでも、「この前飲んだ赤はおいしかったけれど、きょう飲んだ白はいま一つ」など、がっかりすることも珍しくない。
そうした飲み手の悪印象を減らし、日本ワインのファンをさらに増やそうというのが、同アワードの趣旨だ。審査の対象は、設立またはブドウの植え付けから5年以上たったワイナリー。今年は、全体の約7割を占める235のワイナリーが、ソムリエや酒販店の経営者らからなる審査員によって審査された。
審査のポイントは、銘柄間で品質にバラつきがないか、収穫年に左右されず安定しているかといった品質面での安定感に加え、全体的な品質の高さ、コストパフォーマンス、一貫した個性があるかどうか、など。
今年は15のワイナリーが最高位の5つ星、50ワイナリーが4つ星、66ワイナリーが3つ星を獲得した。5つ星は「多くの銘柄・ヴィンテージ(収穫年)において傑出した品質のワインをうみだすワイナリー」と定義されている。遠藤さんは「このワイナリーのワインなら、どの銘柄でもソムリエや酒販店が安心してお客さんにお薦めできる、というのが5つ星ワイナリー」と説明する。
5つ星ワイナリーの中から、知名度抜群で流通量も多い大手を除き、比較的流通量が安定しているワイナリーと、そのワイナリーの代表的な1本を紹介しよう。受賞ワイナリーの一覧は日本ワイナリーアワードのホームページ(https://www.japan-winery-award.jp/)でもチェックできる。
◆タケダワイナリー
山形県のタケダワイナリーは、創業が大正時代という老舗だが、比較的早い時期から欧州のワイン造りに関心を寄せ、欧州系の品種や醸造方法を取り入れてきた。
「ドメイヌ・タケダ ベリーA古木2017」(3800円、税抜き、以下同じ)は、樹齢約70年のマスカット・ベーリーAから造った赤ワイン。マスカット・ベーリーAは日本固有のブドウ品種だが、樹齢70年もの古木は非常に珍しい。古木のブドウで造ったワインは味わいに深みが出ると言われるが、このワインもそんなワインだ。同ワイナリーではほかに、亜硫酸無添加の「サン・スフル」シリーズも、ジューシーな味わいでお薦めだ。
◆中央葡萄酒山梨県の中央葡萄酒は「グレイス」のブランド名で知られる。近年、海外のメジャーなコンクールで数々の賞を受賞するなど、日本を代表するワイナリーの1つだ。
中でも評価が高いのは、日本固有のブドウ品種、甲州から造る白ワイン。甲州は、ワイナリーによって、あるいは同じワイナリーでも個々の銘柄によって、味わいが大きく異なる。「グレイス甲州 2018」(小売価格は2700円前後)は、樽(たる)を使わずに醸造しているため、繊細でエレガントな甲州種の特徴がストレートに表れた1本だ。
◆丸藤葡萄酒工業「ルバイヤート」のブランド名で知られる山梨県の丸藤葡萄酒工業は創業1890年(明治23年)。老舗ワイナリーが多い山梨の中でも歴史が古い。
メルロやシャルドネ、マスカット・ベーリーAなど様々な品種を手掛けているが、お薦めは「ルバイヤート甲州シュール・リー 2018」(ワインショップで2000円前後)。シュール・リーはフランス語で「澱(おり)の上」の意味。澱は、役目を終えた酵母の死骸やブドウの成分が沈殿したもので、通常は発酵が終わった直後に取り除かれるが、シュール・リー製法の場合は、しばらく澱と一緒にワインを寝かせておく。すると、澱の成分がワインに再び溶け込み、味わいに厚みや複雑さが加わる。
◆ダイヤモンド酒造ダイヤモンド酒造は、マスカット・ベーリーAで有名な山梨県のワイナリー。マスカット・ベーリーAは、かつては、品種特有のキャンディのような強い香りがするものが大半で、欧州ワインに慣れた愛好家には不評だった。
しかし、最近は、キャンディの香り抑えたワインも増え、逆に、ほのかなキャンディ香が味わいのアクセントになり、再評価されている。そうしたマスカット・ベーリーAの中でも、ダイヤモンド酒造のワインは非常に洗練された味わいが特徴だ。「ますかっとベーリーA Yキューブ2017」は、2800円前後で購入できる。
◆小布施ワイナリー長野県の小布施ワイナリーは、「マスメディアの取材はお断り」「インターネットでの販売はしない」と宣言するなど、個性の強いワイナリーだが、愛好家の人気や専門家の評価は高い。
経営者の名字を冠した「ソガ・ペール・エ・フィス クロ・ド・カクトー シラー2018」は、シラー種から造った赤ワイン。イチゴをイメージさせるフレッシュな果実の香りと酸味のバランスに優れ、ほのかな黒コショウの香りがアクセントになっている。店頭価格は2700円前後。無農薬栽培のブドウを使い天然酵母で醸造した「ドメイヌ ソガ ヴァンサンシミ」シリーズも人気だが、こちらは入手が難しい。
(ライター 猪瀬聖)
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