個人の構えはそれでいいとして、それを支える社会や制度はどうあるべきなのか。この辺に踏み込んで私見を展開していく。悲観論を排してフラットに論じるのが著者の姿勢だ。敬老の日は廃止してヤング・サポーティング・オールドからオール・サポーティング・オールの年齢フリー社会に移行すべきだ。定年は即刻廃止。厚生年金保険も被用者全体に適用拡大せよ。一見過激な提言が次々と出てくるが、エビデンスを示して語られると納得できる主張が数多い。

学び続けることや教養をめぐっても著者らしい見解が披露される。第4章の「世界の見方を歴史に学ぶ」はその真骨頂で、自ら考えるという考え方を身につける最良の読書ガイドにもなっている。「いくつになっても学び続けることが大事」と著者はいう。「還暦だろうが古希だろうが、年齢など関係ありません」。こんな著者の言葉に元気づけられる読者も多いだろう。「ここ3週ほど、新書の中では一番売れている」と同店でビジネス書を担当する西山崇之さんは話す。5月半ばの発売だが、訪れたときはすでに6刷の本が平積みされていた。

カール・シュミットの入門書が上位に

それでは、先週のベスト5を見ておこう。今回は新書のランキングを紹介する。

(1)還暦からの底力出口治明著(講談社現代新書)
(2)科学的ゴルフ上達法 実践編板橋繁著(講談社ブルーバックス)
(3)カール・シュミット蔭山宏著(中公新書)
(4)「日本が世界一」のランキング事典伊藤賀一著(宝島社新書)
(5)貧乏国ニッポン加谷珪一著(幻冬舎新書)

(紀伊国屋書店大手町ビル店、2020年6月22~28日)

1位は今回紹介した出口氏の本。2位の本は、プロのトレーニングなども手がけるゴルフコーチがゴルフ上達法を説いている。3位はワイマール期から戦後まで活躍したドイツの政治学者、カール・シュミットの思索の変遷をたどった入門書。4位は、オンライン予備校で高校、中学の社会科を担当する人気講師による様々な日本の「世界一」を解説した雑学本だ。日本の国力低下を論じた経済評論家の本が5位に入った。

(水柿武志)

還暦からの底力―歴史・人・旅に学ぶ生き方 (講談社現代新書)

著者 : 出口 治明
出版 : 講談社
価格 : 946円 (税込み)