トヨタは世界を変えたか AIトップの心つかんだ作業着トヨタ・リサーチ・インスティテュートCEO ギル・プラット氏(上)

人間を大切にする考え方がトヨタウェイの根底

「ハーバードの教員や学生は日本から何を学んでいるのか」を深掘りした佐藤氏の最新刊。このインタビューも考察の素材になっている

佐藤 「トヨタウェイ」は全世界のトヨタで働く人々が共有すべき価値観や手法を示したものですが、TRIではどのように実践していますか。

プラット トヨタウェイについては私自身トヨタ社内の専門家から学ぶ機会が数多くありましたし、もちろんTRIのメンバーにもその価値を伝え、実践してもらうようにしています。

とても興味深いのは、トヨタウェイはもともと時代のニーズから生まれたことです。創業者の豊田佐吉(1867―1930)が生きた時代、日本では人もものもお金も不足していました。人々は厳しい生活を強いられ、佐吉が設立した会社も工場も経済的な圧力にさらされており、特に不足していたのが人材でした。こうした中、佐吉は貴重な人材を大切にすることを何よりも優先し、社内に「人を大切にすれば、商業的な成功や利益はあとからついてくる」という考え方が浸透していきました。

トヨタウェイの根底にあるのは、人間を財産として考え、人間を大切にする考え方です。さらに素晴らしいと感じるのは、トヨタウェイが掲げる「人間性尊重」における「人間」がトヨタで働く人間に限らないことです。私たちがめざすのは、世界のすべての人間を尊重することであり、社会そのものをよりよくすることです。

ですからTRIもトヨタウェイにのっとり、「人間性尊重」を実践しています。大手IT企業が多いシリコンバレーでは人材獲得競争が激烈ですが、こうした状況下でも「TRIに入社したい」と希望する人たちが後をたたないのは「アプリやガジェットなどをつくるよりも、もっと人々の生活を変えるような仕事をしたい」という情熱をもつ人たちがいるからです。私たちはトヨタの価値観に共鳴してくれる人を採用しています。

プロセスの透明性を重視

佐藤 トヨタウェイの「知恵と改善」についてはいかがでしょうか。トヨタの「問題を先に報告する文化」をどのようにアメリカで浸透させようとしていますか。

プラット トヨタでは問題が起こったとき、「プロセス」を重視します。「人」から切り離して要因を追求していくのです。

TRIでもこの考え方を実践しています。また、物事はいつも完璧ではないということを前提としています。TRIのメンバーには日ごろから「まず悪いニュースを報告してください。失敗しても恥じることはありません。一緒に解決していきましょう」と伝えています。

これは、多くの企業、特にアメリカ企業の文化とは異なるものだと理解しています。誰でも失敗したら「隠しておこう」「誰にも言わないでおこう」と考えるのは自然なことです。ところが、社員が現場の問題を報告してくれなかったら会社はどうなるでしょうか。悲惨な結果となるでしょう。そこでTRIが重視しているのは、プロセスの透明性です。TRIではトヨタウェイをもとに「信頼」と「透明性」を基本とした組織づくりをしています。

「信頼」と「透明性」はどのように機能するのか。まずトップダウンでの「信頼」を大切にしています。上司が部下をできるかぎり信頼するということです。私自身も部下のマイクロマネジメント(上司が部下の仕事を細かく管理しようとすること)をしません。たとえば「この車のこの箇所についてどういう研究を行うべきか」を決めなくてはならないとき、部下に細かく指示したりせず、部下を大いに信頼してまかせるのです。一方で、ボトムアップでは「透明性」の高い報告をしてもらうようにしています。現場で何が起こっているかを常に正確に把握するためです。

信頼と透明性、トヨタに入社して学んだ

佐藤 トヨタの日本人社員や役員はアメリカで過去何十年にもわたって「問題を先に報告する文化」を根付かせるのに苦労してきたと聞いていますが、プラットさんも同じような経験をしていますか。

プラット 時間がかかるのは承知しています。上司に包み隠さず伝えるのは人の自然な行動ではないですし、誰でも失敗したら「恥ずかしい」「隠したい」と思うのは当然のことです。ところが現場の問題が報告されないと、企業全体がどんどん非効率的かつ非生産的になっていきます。そこで、上司は先に部下への信頼を示さなくてはなりません。そうしないと正直に伝えてもらえないからです。トップダウンでは「信頼」、ボトムアップでは「透明性」の高い報告。この「信頼」と「透明性」は、私自身が豊田社長からの信頼を感じているように、トヨタに入社してから学んだことです。

※「トヨタウェイは世界を変えたか」は毎週月曜日に更新します。次回は7月13日の予定です。

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ギル・プラット Gill A. Pratt
トヨタ・リサーチ・インスティテュート最高経営責任者(CEO)。トヨタ自動車エグゼクティブフェロー(執行役員)。専門分野はロボット工学および神経形態学的システム。ロボティクスやAIが社会にもたらす影響についても研究。1990年マサチューセッツ工科大学博士課程修了(PhD)。マサチューセッツ工科大学准教授、オーリン工科大学教授、同校副学長等を歴任した後、2010年アメリカ国防総省国防高等研究計画局(DARPA) 国防科学戦術技術室プログラム・マネージャーに就任。2015年トヨタ自動車入社。以降、同社にて様々な要職を務める。

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