トヨタは世界を変えたか AIトップの心つかんだ作業着トヨタ・リサーチ・インスティテュートCEO ギル・プラット氏(上)

プレゼンテーションするギル・プラット氏(「CES2019」会場)
プレゼンテーションするギル・プラット氏(「CES2019」会場)

日本を代表する企業として世界の注目を集め続けるトヨタ自動車。とりわけその価値観の中核にあるトヨタ生産方式(TPS)は、ハーバードビジネススクールをはじめ多くの経営大学院で教材となるなど、世界に与えた影響は大きい。米国のビジネス最前線でTPSと向き合うキーマン3人に、作家・コンサルタントの佐藤智恵氏が話を聞いた。最初のキーマンはトヨタ・リサーチ・インスティテュート最高経営責任者(CEO)としてトヨタの人工知能(AI)開発を束ねるギル・プラット氏だ。

(中)人の能力を高め、心を動かす トヨタが目指すAI >>

大切しているものは? トヨタ役員は数字を書かない

佐藤 2015年にトヨタ自動車(以下、トヨタ)に入社したとき、最も驚いたことは何ですか。

プラット トヨタが社会に貢献することを何よりも大切にしている点です。これはお世辞でも何でもなく本当にそうなのです。

トヨタ・リサーチ・インスティテュートCEO ギル・プラット氏

それを物語る象徴的な体験を1つお伝えしましょう。トヨタに入社して1年目のときに、日本のトヨタ本社、および北米本社(TMNA)の役員が一同に集まる会議に参加する機会がありました。この会議の目的は「自動車とモビリティの未来」について話し合うことでした。

会議の冒頭、外部のファシリテーターから「トヨタが最も大切にしていることは何だと思いますか。紙に書いてください」と言われたので、私たちはそれぞれ自分の考える「最も大切にしていること」を書いて、壁に貼り付けていきました。その結果を見たファシリテーターはとても驚いた様子でこう言いました。

「私はこれまで多くの自動車メーカーで同じような会議のファシリテーターをつとめてきましたが、このような結果を見たのは初めてです。他社のほとんどの役員は『利益を向上させること』『生産台数を増加させること』等、財務指標に関わることを挙げていましたが、ここにはそういう意見が見当たりません」

トヨタの役員が書いていたのは「人々がトヨタの車を愛してくれること」「社会に価値を提供すること」といったことであり、数字に関わることを書いた人は一人もいませんでした。この結果に私自身も驚きました。

最初の面接で認知症を議論

佐藤 プラットさんは、マサチューセッツ工科大学やオーリン工科大学で教べんをとられたのち、アメリカ国防総省国防高等研究計画局(DARPA)で重要な研究プロジェクトのリーダーをつとめられました。50代半ばでトヨタに入社しようと思った動機は何ですか。

プラット ちょうどそのころ「自分の残りの人生を使って、最も効果的に社会に良い影響を与えるにはどうするのがいちばんいいだろうか」と考えていました。トヨタの役員の方々と面接を重ねていくうちに、「トヨタの一員になれば、他の組織で研究するよりも、社会により大きな影響を与えられるのではないか」と思うようになりました。

トヨタに入社しようと決断した理由はいくつかありますが、特に決め手となった出来事が2つあります。1つめは第1回の面接です。面接官をつとめていた役員がいきなり紙に英語で「dementia(認知症)」と書いて私に見せました。自動車メーカーの研究職の面接を受けに来た私と「認知症」について議論しようというのです。「何てクレイジーな会社なんだ!」と思いました(笑)。面接では自動車製造や経営にかかわるような質問は一切聞かれませんでした。「高齢化社会に役立つために必要な研究は何か」「社会をよりよくするために何をやるべきか」などについてひたすら議論したのです。

2つめが……トヨタの作業着を気に入ってしまったことです。これは冗談ではなく本当の話です。作業着そのものも気に入っていますが、役員も従業員も皆、同じ作業着を着用していることに感銘を受けたのです。この背景には「私たちは皆、同じチーム」「それぞれ役割は違っても皆、同じように大切な仲間」という考え方があります。この文化に心から共感しました。

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