テレビ、ボーナスの主役に 10年前の制度に遠因あり
経済活動が徐々に平時に戻ってきました。家電量販店のテレビ売り場は活気づいています。業界が期待していた五輪特需はお預けになりましたが、コロナ下の巣ごもり需要が出ています。買い替えのサイクルが大きなピークを迎えていることもあり、今夏のボーナス商戦でも主役となりそうです。
大画面化すすみ、売れ筋は50~55型
家電量販店の今の売れ筋は50~55型です。液晶テレビの場合、10万~15万円。店頭の売れ行きで上位に入っている人気機種、ソニーの「KJ-55X9500G」の価格をみると1年前と比べて3万5000万円ほど値下がりしています。
新型コロナの感染が広がるまでは東京オリンピックをにらんでテレビの販売競争が活発でした。「今までより大型のものや、4K、8Kといった高画質で見たい」という需要を見込んでメーカーが売り込みました。ところが、オリンピック開催は延期になりました。値段にはどういう影響があったんでしょうか。
メーカーや家電量販店にとっては、オリンピック需要が空振りした格好です。ただ、巣ごもり需要でテレビの売れ行きはいいとの声が多いです。ビックカメラ有楽町店の売り場担当者は「去年と同じか、やや上」だと話しています。家で過ごす時間が長くなり、休日にテレビでネット配信の映画を楽しむ人が増えました。新型コロナで外国人観光客が減った影響を受けにくかった面もプラスに働いています。テレビの場合、健康・美容家電、あるいは化粧品・日用雑貨と比べインバウンド需要がもともと少ないのです。
買い替えのピーク重なる
今、テレビは複数のタイミングが重なっていて、買い替えサイクルの一大ピークといえるような状況です。一般的にテレビの耐久年数は7~10年です。10年前にはなにがあったでしょうか。それが2009年から11年にかけて実施された家電エコポイントです。家電エコポイントはテレビ・エアコン・冷蔵庫が対象で、省エネ機種に買い替えると、お金の代わりになるポイントが付与されました。テレビがアナログから地上デジタル放送に移行するタイミングとも重なり、売れました。ちょうどこのころ、私も取材していましたが、1カ月の売り上げで比較すると前の年に比べ3倍以上という特需ぶりでした。10年前に大量に売れたテレビが今、更新期を迎えているのです。
店頭ではどういうテレビが人気あるんでしょうか。大きく分けると液晶テレビと有機ELテレビがあります。有機ELが新しい技術で、超薄型、高画質で、消費電力も少ない。これまでは有機ELは液晶の倍近い値段がしていました。今は価格差が縮まりっています。
液晶と有機ELが半々
ビックカメラ有楽町店で液晶と有機ELの売れ行きについて聞いてみました。担当者は「昨年度までは金額的な兼ね合いがあって液晶テレビの方が売れていた。有機ELテレビも値下がり傾向にあるので人気は半々くらいになっている」と話します。液晶の55型サイズで平均単価が20万円。一方、有機ELは平均単価30万円くらいです。有機ELの発売当初は40万円くらいだったので、お買い得になっています。
55型を例にとると液晶と有機ELテレビの価格差は10万円くらい。この10万円の差を消費者がどう見るかですね。大きいが、そこに、新型コロナ対策で国民に配られた給付金があります。使い道は人ぞれぞれだと思いますが、「せっかくテレビを買い替えるならより良いものを」と考える人は少なくないでしょう。
今後の値段はどうなる
先行きの値段はどうなるでしょう。まず液晶の場合はある程度までは下がり切ったとみています。中国が国策で液晶パネルのメーカーに大量の補助金を出して、安い液晶パネルを投入、激しい価格競争を挑んだ。2017年から19年の間で液晶パネルの値段は半額以下になった。韓国や台湾のメーカーは採算が悪くなり生産を減らしました。韓国サムスンがテレビ向けの大型液晶から撤退を決め、LGも段階的に縮小する方針です。韓国勢の撤退で需給バランスが安定して、価格の下落も落ち着くとみられています。テレビ自体の価格も大幅な下げはなさそうです。
一方、有機ELはまだまだ生産技術の進歩でコストが下がりそうです。いまは韓国に大きく水をあけらている中国が液晶と同じような価格戦略で挑んでくれば数年前の液晶と同じような値下げ競争が引き起こされそうです。現在、有機ELテレビの価格は液晶の1.5倍にまで縮まっています。今後、売り場の存在感は一段と高まりそうです。
(BSテレ東日経モーニングプラスFTコメンテーター 村野孝直)
BSテレ東の朝の情報番組「日経モーニングプラスFT」(月曜から金曜の午前7時5分から)内の特集「値段の方程式」のコーナーで取り上げたテーマに加筆しました。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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