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葬儀10分、立ち会いは10人まで コロナ禍のサンパウロ

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NIKKEI STYLE

ナショナルジオグラフィック日本版

ブラジル、サンパウロ──ビラ・フォルモサ共同墓地の従業員が、マノエル・ジョアキン・ダ・シウバ氏を埋葬したとき、消毒液の鼻をつくにおいが漂ってきた。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が疑われる死は「バイオハザード」(生物災害)と見なされ、79歳で生涯を終えたダ・シウバ氏の書類には、「D3」というスタンプが押されている。このスタンプは、墓地の従業員は霊柩車の到着前に、緑色の分厚いゴム手袋、N95マスク、フードが付いた白のビニール製スーツという完全装備の防護服を着用する必要があることを意味するものだ。

そして、家族にとっては、世界のほかの多くの地域と同様、家族に別れを告げる時間が10分しかないことを示している。

手袋とマスクを着用した息子2人が木棺の足のほうを左右からつかみ、父親を永眠の地まで運ぶ。墓地には一列に穴が掘られ、列と列の間には土の山がある。手袋をはめた孫娘が間際に届いた白と赤の花輪を持ち、ボーイフレンドがその後ろに続く。今いるのはこの4人だけだ。

ダ・シウバ氏は飲食店の調理場で定年まで働いた。その後、年金暮らしをしていたが、年金だけで生きていくのは難しいと気付き、通りで宝くじを売り始めた。客とおしゃべりをして過ごす毎日だったが、2020年3月24日、サンパウロ市が街全体の自主隔離を公式に宣言すると、彼はこれに従った。

その1週間後、ダ・シウバ氏は病院にいた。それからわずか1週間後、彼は埋葬されることとなった。実は、この時点では、新型コロナウイルスの検査結果はまだ出ていなかった。

ダ・シウバ氏には3人の子供がいる。しかし、亡くなったあとに葬儀は行われなかった。重労働もいとわず、ネコとイヌを愛し、自宅でサンバの名曲を歌っていたダ・シウバ氏。彼を偲んで、家族や友人が思い出を語り合うこともなかった。ブラジルでは通常、盛大な通夜を執り行い、棺(ひつぎ)を開けたまま、皆で故人を囲むのが常なのだが――。

ダ・シウバ氏の遺体はビニールで包まれ、棺は密閉された。60歳になる妻は、健康上の問題を抱えており、最後の別れを告げることはできなかった。娘も看病のため、自宅にとどまった。

埋葬に立ち会った4人は肩を並べ、男たちが大急ぎで棺を埋めるのを静かに見守った。

棺に最後の土がかけられ、穴の列に小山が出現したとき、次男のロドリゴ・マノエル・ダ・シウバ氏が首をうなだれた。

「こんなはずではなかった」とロドリゴ氏はつぶやいた。父親が埋葬された区画Q56の隣には、すでに別の霊柩車が到着している。「皆ここに来たがっていた。家族全員がここに来るべきだった。父はこのような扱いを受けるべきではなかった」

COVID-19がブラジルに到来してからというもの、埋葬は極めて簡易的なものになっている。ブラジルの感染者と死者の大部分が集中するサンパウロでは、犠牲者の多くがビラ・フォルモサ共同墓地に送られている。ビラ・フォルモサは面積75万平方メートルで、中南米最大の墓地とされるほど大きい。1949年5月の完成後、150万人以上が埋葬されている。

ビラ・フォルモサはサンパウロに3つある共同墓地の一つだ。20年4月だけで約1680人が埋葬されている。これは1年前の2倍近い数字だ。従業員は途方に暮れている。人々の安全を守るための規則に従いながら、多くの死者を埋葬しなければならないからだ。市の職員として墓掘りの仕事をする人は、60歳以上が約60%を占める。新型コロナウイルス感染のリスクが高いため、60歳以上の職員は仕事を休んでいる。死者の埋葬が遅れないよう、市はある民間企業を経由し、220人の臨時職員を採用した。

そして、ダ・シウバ氏と同じように、亡くなった時点で感染しているかどうかの検査結果が出ていない人も数千人いると考えられている。検査結果が陽性だった場合でも、集計に追加されるまでには死後数日かかる。検査すら受けていない死者もいるだろうが、彼らの死因は単なる呼吸器不全として記録されるのみだ。

残された家族にとっては、失うものが多い。愛する人を失ったことに加えて、伝統的な哀悼の儀式まで奪われることも悲しみを深くしている。

せかされる家族との別れ

ジルベルト・ジュリオ氏は野球帽を脱ぎ、目を閉じた。すでに夕方前で、祖母ディーバ・バルボサ氏との時間はわずかしか残されていない。ビラ・フォルモサ共同墓地の職員は早く仕事を終えようと急いでいる。85歳で死去したディーバ・バルボサ氏の棺にロープを巻き、手袋をはめた手で永眠の地へと少しずつ動かす。すでに別の霊柩車が到着し、別の家族が動揺した表情で涙を流している。職員はこの家族を待たせたくないと考えていた。

バルボサ氏には5人の子供、13人の孫、18人のひ孫、1人のやしゃごがいるが、埋葬に立ち会ったのはわずか数人だ。新型コロナウイルスに関連した死かどうかにかかわらず、死者の埋葬には10人までしか立ち会うことができない。残りの家族は自宅で、埋葬したことを告げる電話を待つほかない。

ジバルド・ネリ・レイス氏は46歳の若さで亡くなった。病院に収容されたとき、医師たちは当初、ただの肺炎だと考えた。集中治療室(ICU)に入って2日目、COVID-19に感染していることが確認された。持病はなかったため、家族は回復を確信していた。

ところが容体は急変し、ICUで20日間が経過した後、ウエリトン・ネリ・レイス氏は兄弟の墓地で聖書の一節を読むことになった。その声はかすれ、「神」の部分で言葉に詰まる。

その横では、ウェスリー・レイス氏がマスクを付けた顔の前で携帯電話を持ち、おじの埋葬の様子を立ち会えない家族にビデオ中継で伝えている。レイス氏の71歳の母親を含む家族のほとんどが、自宅待機を余儀なくされている。

別の霊柩車がウェスリー氏の横にバックで入ってくる。ウェスリー氏の10分は終わりに近づいていた。

次ページでも、新型コロナがもたらした、親族との短い別れを強いられる墓地の様子を紹介しよう。

(文=JILL LANGLOIS、写真 GUI CHRIST、訳 米井香織、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年6月7日付の記事を再構成]

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