お金を言い訳にしない 震災・うつ…壁越えた慶大OGLIGウェブディレクター 阿部愛里さん

高校生活も残り数カ月となった13年12月、気仙沼を「恋人のまち」としてPRする底上げYouthの活動が、認定NPO法人カタリバ(東京都杉並区)が主催する「全国高校生マイプロジェクトアワード」で最優秀賞を獲得する。そこでカタリバ代表理事の今村久美さん、途上国の素材を使ったバッグなどを製造・販売するマザーハウス(東京・台東)の副社長、山崎大祐さん、介護と仕事の両立を支援するリクシス(東京・港)の副社長、酒井穣さんらと出会った。いずれも慶大の卒業生。そのうち今村さんと山崎さんはSFC(湘南藤沢キャンパス)の出身だった。

SFCには筆記試験ではなく書類選考と面接で合否が決まるAO(アドミッションオフィス)入試がある。自分にもチャンスはあると考え「行くならSFC」と思い定めたものの、合格の保証はもちろん、学費を工面する当てもなかった。正直、気持ちは揺れた。その迷いを振り払ったのが今村さんらのアドバイス。「おカネなんてなんとかなる、おカネを言い訳にしない方がいいよ」

高校を卒業して上京。今村さんの自宅の一部屋を貸してもらい、酒井さんの会社で働きながら「ギャップイヤー」の1年間を過ごした。ウェブマーケティングや被災地での人材研修をサポートしたが、初めのうちはとびかう専門用語の意味がわからず、ついていくのがやっとだった。そして迎えたSFCのAO入試。年間に複数の受験チャンスがある制度で、1回目は失敗したものの2回目で合格し、15年4月に慶大生となった。震災をきっかけに慶大OBが創設した奨学金で、学費全額の支給を受けられる幸運にも恵まれた。

「バリバリやってやる」と意気揚々とキャンパスライフに臨んだが気後れもした。周りには都会育ちが多く、英語が堪能な帰国子女も少なくなかった。一般入試の受験勉強を経験していないこともあり、学力コンプレックスにもさいなまれた。地方出身で生活のためにアルバイトやインターンに明け暮れる自分には、学生起業家を目指すと語るキラキラした同世代が遠い存在に見えた。

「あんたが選んだ道なのだから」

地元の仲間やお世話になった人々の期待に応えたいとの思いも空回りした。いくつかのプロジェクトに挑んだが長続きせず「自分は何をしたらいいのだろう」と焦った。うつ病になり、パニック障害にもなった。何度も大学を辞めることを考えたが「逃げたら一生後悔する」と踏みとどまった。「あんたが選んだ道なのだから」との母の言葉も重かった。

大きな転機を与えてくれたのは、福祉をテーマにした課題解決の授業だった。高校で福祉を本格的に学んだのは自分ぐらい。実際の過酷な現場も知っていた。障害者の就職支援などを手がけるLITALICO(りたりこ)のウェブライターとして、発達障害に関する記事を書いた。閲覧数が250万ページビュー(PV)になるほど反響を呼んだ。

この会社の協力を得て2万2千件のデータを分析し、優秀卒論になる「発達障害児の母親の悩みと添い遂げる社会のあり方」を書き上げた。5年間を過ごしたSFCについて「先生と学生の距離が近い。いろんな悩みも聞いてくれた」と振り返る。

現在はウェブ制作のLIG(東京・台東)でウェブディレクターとして働いている。インターンとして仕事をしていた8社のうちの1社だ。「Life is Good」になるなら何をしてもいいという社風にひかれた。コロナ禍のさなかの入社となったが、これまでに培ったITスキルもあってテレワークはまったく苦にならない。「ウェブとプロジェクトを結びつけるノウハウを学び、地元の仲間と気仙沼に役立つことをしたい」。被災した故郷への思いが弱まることはない。

阿部さんを支援してきたカタリバの今村さんは、コロナ禍によって困窮する若者が増えると予想。5月には経済的事情で自治体の就学援助を受けている世帯へのパソコン無償提供を始めた。「学習支援の機会に自ら手を伸ばすことが大事だ」。願うような今村さんの言葉は阿部さんと同じような悩みを抱えた若者たちへのエールでもある。

(代慶達也)

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