なぜエッセンシャルワーカーに?命名で変わる人の意識第8回 アイデア分析編(3)

オンラインの記者会見で、無観客試合に代わる名称「リモートマッチ」と書かれたボードを掲げる各リーグの出席者=15日
オンラインの記者会見で、無観客試合に代わる名称「リモートマッチ」と書かれたボードを掲げる各リーグの出席者=15日

この連載では、「プロが教えるアイデア練習帳」(日経文庫)の著者が、最近話題のアイデアを分析しながら、発想力を高めるヒントを見つけます。分析編3回目の今回は、言葉に関するアイデアです。新型コロナの影響で今、エッセンシャルワーカーやリモートマッチなどの新しい言葉が次々と生まれています。世の中に定着する言葉には、どのような共通点があるのでしょうか。言葉の力を分析しながら、アイデアを広げるヒントを見つけていきます。

◇   ◇   ◇

人々の意識を変える言葉とは

「エッセンシャルワーカー」という言葉を初めて聞いたとき、すごく良い言葉だなと思いました。

ご存じの方も多いと思いますが、エッセンシャルワーカーとは、医療関係者をはじめ、トラックの運転手、ゴミ収集係、警備員、スーパーのレジ係など、コロナ禍において身の危険を感じながらも現場で働き続けている方々のことを指します。

エッセンシャルとは、英語で「必要不可欠な」という意味。まさに、社会が正常に回り続けるために必要不可欠な仕事についているわけです。

この「エッセンシャルワーカー」という言葉は、新型コロナの前から存在していた言葉かもしれません。しかし、コロナ禍において各国の大統領や首相たちがスピーチの冒頭でエッセンシャルワーカーたちに敬意の意を述べたり、メディアが使ったりすることによって、一気に広まった言葉だと考えられます。

少し前までは、医療関係者は別にしても、トラックの運転手、ゴミ収集係、警備員などは、肉体的な労働をおこなう、いわゆる「ブルーカラー」と呼ばれる職業に含まれていました。これは、オフィスで働く「ホワイトカラー」との区別で使われることが多く、そこに特別なリスペクトがあったとは思えません。

しかし、この「エッセンシャルワーカー」という言葉が使われるようになり、全く同じ仕事をしているにもかかわらず、人々が感謝し、リスペクトするような雰囲気が生まれたのではないでしょうか。「ブルーカラー」から「エッセンシャルワーカー」へ。たった10文字程度ですが、多くの人々の意識を変える力を持っているのが「言葉」なのです。

言葉の力が面白いのは、一度定着した言葉やそこから生まれるイメージは、元には戻りにくいということです。今後、新型コロナがある程度収まったとしても、この「エッセンシャルワーカー」という言葉が残る限り、社会的に必要な仕事をしてくれている人々に敬意の念を忘れないようにしようと思う考えは、人々の頭の中に残るでしょう。「エッセンシャルワーカー」という言葉がなかった時代に戻るのが難しい、そんな「不可逆性」を持つのも、言葉が持つ強さです。

今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら
注目記事
次のページ
言葉は時代のページをめくる
今こそ始める学び特集
ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら