
途絶えた塩づくりを約100年ぶりに再開したのが昨秋、本州から移住してきた藤本健さんだ。この島に限らず、離島での塩づくりは島外からの移住者によって行われることが少なくないが、地元民の理解と協力を得るのはなかなか容易なことではない。離島には、どうしても保守的なところがあるからだ。
藤本さんは西表島での塩づくりを実現するために、家族を石垣島に残し、単身で西表島に移住。祭りなど地元行事に積極的に参加しコミュニケーションを深めてきたことで、島民の理解を得ることに成功。地元の協力者と一緒に半年間かけ、自前の製塩所を作り上げた。
前職が理化学系メーカー勤務だった藤本さんは、その知識と経験をいかし、西表島で初となる逆浸透膜と耐塩性の高いステンレスの平釜を導入。
同時に太陽と風の力だけで海水を結晶化させる天日結晶ハウスも建て、釜炊き塩と天日結晶塩の2種類の塩の製造をスタートさせた。釜に火を入れる「火入れ式」には周辺住民も多く参加した。今では地元の祭りの際の清めの塩も、この塩が使われるようになった、と聞いた。
原料となる海水は、公民館の所有地であるブサシ浜で、許可を得て取水している。神聖な場所での取水が許されるのも、藤本さんが地元に受け入れられている証拠だろう。海水を入れたタンクを1トントラックで製塩所まで運び、逆浸透膜にかけ、海水と淡水を分離させ濃縮海水をつくる。この膜を通すことで海水中の不純物を除去することで、塩の安全性を高めている。

釜炊き塩の場合は、濃縮した海水を高温蒸気の熱で温められたステンレス製の釜に入れ、時間をかけて煮詰めて結晶させていく。釜は常に海水が流動し、むらなく熱が加わるよう設計されているので、均一で美しい凝集晶ができあがる。
天日塩の場合は、濃縮した海水を結晶ハウスに並べたA4サイズほどの黒い箱の中に入れてつくる。箱を黒にすることで熱効率が良くなる。結晶ハウスの中は夏場、温度が70度ほどになり、長くはいられない。朝夕の少し涼しい時間帯に塩の様子を見ながら、太陽と風の力だけで約1週間かけてじっくりと結晶させていく。できあがった塩は単結晶の美しい立方体で、直径約5ミリ。収穫後、天日でしばらく乾燥させ、1粒1粒より分け、ようやく製品に仕上がる。
高度な技術を持つ藤本さんだが、時には納得いかない塩ができあがってしまうこともあるという。そんな時は再びそれを海に戻し、イチからやり直すという。