老化につながる毛細血管の「ゴースト化」 何歳から?
この記事では、今知っておきたい健康や医療の知識をQ&A形式で紹介します。ぜひ今日からのセルフケアにお役立てください!
(1)30代
(2)40代
(3)50代
(4)60代
(5)70代
答えは次ページ
答えと解説
正解は、(2)40代です。
「人は血管とともに老いる」という言葉が有名になり、多くの人が血管の健康に関心を抱くようになりました。血管の若さを保つことは、健康寿命を延ばすための必須事項です。
では、どの血管が大切なのでしょうか。もちろん動脈も静脈も重要ですが、ほかに忘れてはならない血管があります。それが毛細血管です。
ここ数年、毛細血管が老化や病気に及ぼす影響がクローズアップされるようになりました。加齢や生活習慣などにより、毛細血管が傷んで機能しなくなる――「ゴースト血管」というキーワードを聞いたことがある人もいるでしょう。
愛媛大学医学部附属病院の抗加齢・予防医療センター長、伊賀瀬道也さんは、「毛細血管は、その名の通り毛のように細い血管で、太さは頭髪のわずか10分の1程度です。動脈や静脈のような大きな血管に比べると、微々たる存在だと思う人もいるかもしれません。しかし、毛細血管は体の血管の95~99%以上を占める、決して軽視できない血管です」と話します。
毛細血管は、体の隅々まで栄養分や酸素を運ぶ重要な存在です。毛細血管が傷んでゴースト血管になると、血液が流れにくくなり、栄養分や酸素を体中の臓器に適切に運ぶことができなくなります。「この状態が続けば、当然、体の各所で機能が損なわれ、さまざまな病気が引き起こされます。見た目の老化、免疫力の低下、さらには認知症のリスクを上げることも分かってきました」(伊賀瀬さん)
体のコゲ「糖化」と、サビ「酸化」がゴースト化を進める
なぜ、毛細血管がこのようにゴースト化してしまうのでしょうか。その原因として、伊賀瀬さんが挙げるのは「糖化」と「酸化」です。いずれも私たちの体の老化を進める主犯としてよく知られています。
糖化とは、体内のたんぱく質が糖質と結びつき、たんぱく質が劣化する現象。「体内の糖質が過剰になると糖化が進んで、AGE(糖化最終生成物)という物質が産生されます。AGEは体の『コゲ』のようなもので、AGEが蓄積されると、大きな血管はもちろん、毛細血管にも悪影響を与えます。毛細血管の壁細胞が傷ついてはがれ、内皮細胞の隙間が広がってゴースト化を招くのです」(伊賀瀬さん)
ゴースト血管のもう1つの原因である「酸化」はいわば体の「サビ」。体内で反応性の高い「活性酸素」が過剰に作られ、それが組織を傷めていきます。適量ならウイルスや細菌を撃退してくれる心強い味方となりますが、過剰になると正常な細胞まで傷つけて組織の劣化を進め、老化を加速させ、さらにはがんなどの病気も引き起こします。伊賀瀬さんによると、糖化と酸化とは密接な関係にあり、糖化が起こると酸化も引き起こすのだそうです。
毛細血管が減少し始めるのは40代から
では、毛細血管のゴースト化は何歳くらいから始まるのでしょうか。
伊賀瀬さんは、「毛細血管のゴースト化は老化現象の1つです。体内の細胞は新陳代謝を繰り返して、新しい細胞に入れ替わっています。一般に40代くらいから新陳代謝が低下しますが、同様に毛細血管のゴースト化も始まると考えてください」と話します。
伊賀瀬さんは、毛細血管が加齢とともに減少することを示すデータも出ていると話します。「加齢による毛細血管の変化を調べた研究では、20代の毛細血管の量を100%としたとき、60代、70代では約4割も減ると報告されています」(伊賀瀬さん)。
毛細血管が減るといっても、もちろん全員が一律に4割減るわけではありません。「早ければ20~30代でゴースト化が見られる人がいる一方で、高齢でも健康な毛細血管を維持している人もいます。進行度合いには個人差があります」(伊賀瀬さん)
個人差があるとはいえ、ゴースト血管は40代から始まっているのです。この言葉に、「40代なんてまだ働き盛りじゃないか」と驚く人もいるでしょう。伊賀瀬さんは「加齢とともに多かれ少なかれ体の機能は落ちるので、ゴースト血管が増える(=毛細血管が減る)のを完全に避けることはできません。しかし、もう手遅れだろう、とあきらめることはありません」と話します。
「ゴースト血管には、食生活や運動などの生活習慣が関係することが分かっています。逆に言えば、ゴースト化を進めるような生活習慣を改善すれば、毛細血管の健康を維持できるということです。毛細血管には、血管を新たに作る、『血管新生』という仕組みが備わっています。生活習慣を良い方向に変えれば、何歳からでもゴースト血管対策は有効です。一度ゴースト化した毛細血管も再生できます」(伊賀瀬さん)
食事と運動を工夫すること、つまり生活習慣を改善することで、ゴースト化を防ぎ、毛細血管を増やせるというわけです。食事面のポイントは、糖化の原因となる糖質のとり過ぎを避けたり、ポリフェノールなどの抗酸化成分を含む食品を意識してとる、AGEが多く含まれる揚げ物、焼き物に偏った食事を避けることなどです。運動面ではウォーキングなどの有酸素運動の実践、そして特に第2の心臓と呼ばれる「ふくらはぎ」を鍛えることが大切です。
[日経Gooday2020年6月15日付記事を再構成]
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