地方にオンライン議会熱 災害対応や女性活躍に期待
新型コロナウイルス対策として、地方議会でオンライン会議を活用する動きが広がってきました。感染拡大につながる「3密」を避けるための緊急避難的な対応ですが、平時でも様々な事情で出席が難しい議員のために利用することができます。子育てや介護に携わる人たちも議会に参画しやすくなり、議員のなり手不足に悩む地方で人材確保の裾野を広げるきっかけになりそうです。
茨城県取手市議会で2月に就任した斎藤久代議長は、その直後からコロナ対策に追われました。緊急事態宣言が出た直後からほぼ毎週、オンラインで対策会議を開き、市長に提言してきました。オンライン会議に必要な情報機器に不慣れな議員もいますが、議会事務局のサポートもあり、技術的な不安はなかったそうです。
議員も出産、育児、介護、看護などで、家庭か議会かの選択を迫られる状況が生じます。取手市議会は2018年にオンライン会議の活用を提言し、準備を進めてきました。
今秋以降、審議や採決も行う模擬オンライン議会を実施し、課題を洗い出して実際のオンライン議会につなげる計画です。斎藤議長は「出産や子育てに携わる女性が、議会活動に取り組むチャンスが広がる。本当に期待している」と話しています。
すでにオンラインで審議を実施したところもあります。福島県磐梯町議会は6月定例会で常任委員会の連合審査をオンラインで開き、条例案を審議しました。別の常任委員会では補正予算案の審議にあたり、町側が別室から提案理由を説明し、質疑にも答えました。大阪市議会や大阪府議会もオンラインで委員会を開けるよう規則や条例を改正しています。
総務省は4月に示した見解で、委員会はオンラインで開けるものの、本会議は実際の出席が必要になるとしています。都道府県議会議長会などは本会議もオンラインで開けるよう総務省に検討を求めています。
地方議会に詳しい片山善博早大教授はオンラインの活用について「議会改革につながる。子育て中の女性などの議会参画が進み、なり手不足の解消の一助になる」と評価します。総務省の見解には、委員会も本会議も出席の意味に違いはなく、現状でも本会議のオンライン化は可能だ、と指摘しています。
新型コロナでは「3密」対策として議会の審議時間を短縮する動きも出ています。片山氏は「図らずも平時の議会運営がいかに不要不急のものか、自ら告白したようなものだ」と批判したうえで、想定問答通りのやりとりが目立つ議会運営を改革すべきだ、と話しています。
片山善博・早稲田大学教授「議会改革を考える契機」
新型コロナウイルスに伴う地方議会のオンライン化の動きについて、地方議会改革に詳しい元鳥取県知事の片山善博早大教授に聞きました。
――地方議会でのオンライン議会の動きをどう見ていますか。
「肯定的に評価している。一つは緊急避難的な対応だ。例えば、議員にコロナで陽性が出た場合、議会は開けなくなる。一定期間、議会を開けないと大事なことを決められない。そうすると地方自治法の規定では専決処分になる。そんな時に専決処分を増やすのは将来に禍根を残す。そうならないために緊急避難的に議会を開けるようにしておいた方がよい。選択肢としてオンライン議会が現実的だ」
「平時でも活用の道がある。基本は対面の議会でなければいけないが、例外的、部分的にオンラインを利用することはありうる。それは議会改革につながるのではないか。例えば、女性議員が出産、子育てで議会に出られないことがある。介護しなければならない場合も議会に出られない。こうした特別な事情のある人に限ってオンライン参加を認めることがあってもよい。そうすれば子育て中の女性などの議会参画が進み、なり手不足の解消の一助になると思う」
「鳥取県議会で、短時間であっという間に終わるが、どうしても1日だけ臨時議会を開かなければならないことがあった。それに遠方から来てもらうのは申し訳ない。北海道議会などはもっと大変だと思う。形式的には非常に重要だが、中身はそうでもない案件はあり、そうした際に臨時的にオンラインを利用する道があってよい」
――総務省は4月に通知で「オンラインで委員会は開けるが、本会議はできない」との見解を示しました。都道府県議長会は本会議も開けるよう検討を求めています。
「本会議は今でもオンラインで開けるはずだ。総務省の通知は『委員会への出席は条例で決めればよいことになっているので自治体で決めればよい。本会議は法律で定足数は出席議員で数えるとなっているから出席が必要でオンラインでは開けない』としている。これは意味不明だ。出席という概念は委員会でも本会議でも変わらない。委員会への出席はサイバー空間に参加することでもよいと自治体が決められるというなら、地方自治法の解釈で本会議の出席もサイバー空間への参加でよいとすることは当然ありうる。そこに差を付ける意味はない」
「地方自治法の解釈について、総務省の人たちは自分たちが解釈の独占権を持っていると思っている。これは全く間違いだ。法律は万民が解釈できる。たまたま関係の深い役所ということはあるが、彼らが独占しているわけでは毛頭ない。自治体や議会で解釈して自信をもってやればよい。私は自治体の人に通知は無視したらよいと言っている」
「例えば、大学はオンライン授業になっているが、教室にいなければ出席でないとすると、全員欠席になってしまう。学校教育ではサイバー空間で授業を受ける生徒は出席になる。出席という日本語は地方議会の出席も学校教育の出席も同じはずだ。総務省の人の考え方によると、オンライン授業はみな欠席になってしまい、単位が取れない。それを考えると、いかに非常識かと思う。本会議が開けないから要請するのではなく『総務省の考え方は古いねえ、私はやりますよ』というのが地方分権の時代だ」
――地方議会ではコロナ対策として、審議時間を短縮する動きも出ています。
「図らずも平時の議会運営がいかに不要不急のものか、自ら告白したようなものだ。これは議会が不要不急なのではなく、今までやっている議会運営が不要不急ということだ。議案の処理はそっちのけで執行部と質問中心のやりとりをするが、ほとんどが原稿通りに読み合う学芸会だ。これが不要だということは彼らも知っている。それを自覚しただけでも大きな成果で、議会改革のスタートになる」
「議会の『要』『急』は案件を決めること。補正予算を決めるなど、決定する案件を中心にやればよい。決めるために必要な質疑はやったらよい。普段は決定に関係のないパフォーマンスや提案をやっている。早く政策化しなければいけない提案なら大いにやればよいが、一般論はやる必要がない。こうしたことが今回、浮き彫りになった」
(編集委員 斉藤徹弥)
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