日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/7/13

「自然環境で実験したことはとても重要なことでした。自然環境でこそ、鳥が実際に世界をどうとらえているかをよく理解できるからです」とストッダード氏。

花の蜜を餌とするハチドリは、すぐに砂糖水と味のないただの水と、それぞれの色を関連付けることを学んだという。

ストッダード氏らの実験は、16年から18年までの3シーズンにわたって19回行われた。給餌器にやってきたハチドリはのべ6000羽にのぼる。給餌器への鳥の訪問を記録した結果、フトオハチドリが給餌器の色がスペクトル色相でも非スペクトル色相でも、常に甘い水の給餌器を選ぶことが証明された。

「人間の目では同じ緑色の給餌器にしか見えないケース、例えば、LEDで紫外線を加えた給餌器と、紫外線を加えていない給餌器があっても、ハチドリには違いがはっきり分かるのです」(ストッダード氏)

「非常に大胆な実験的アプローチです」とメール取材で語るのは、メリーランド大学カレッジパーク校の進化生物学者カレン・カールトン氏だ。この研究は「ハチドリの目を通してみれば、世界はわたしたちが見ているものとは全く違うことを示しています」

動物と色覚

色覚は、動物が食べ物や交尾相手を選んだり、捕食者を避けたりするうえで役に立つ。例えば、人間が見てもただの黄色い花であっても、ミツバチは黄色の花の中に紫外線色の模様を見ることができ、射的の的のようなその模様が、ハチを蜜へと導いている。

なぜハチドリが多様な色を感知できるのかを調べるために、ストッダード氏らは、鳥の羽毛と植物の色についての既存データを分析した。その結果分かったのは、ハチドリは鳥の羽毛の30パーセント、植物の35パーセントの色を、非スペクトル色相で見られるということだった。非スペクトル色相は、「人間には想像すらできない色」(ストッダード氏)だ。こうした能力は、小さなハチドリたちが多様な種類の植物と、その花蜜を見つけるのに役立っていると考えられる。

ストッダード氏によると、今回の研究結果は、日中に活動し、4色型色覚を持つ鳥類だけでなく、一部の魚類、爬虫類、無脊椎動物にも当てはまるという。また、こうしたすぐれた識別力は、カラフルな羽毛を持っていたと考えられている恐竜にも備わっていた可能性がある。

哺乳類は、もともと昼間の世界の豊かな色を見る必要のない夜行性の生き物から進化した。このため、イヌやネコを含む大半の種が2色型色覚で、青と緑の錐体しか持っていない。ヒトが3番目の錐体(赤)を進化させたのはあるいは、初期の霊長類が熟した果実を好むようになったせいかもしれない。

「自然界の多様な色を理解したいなら、まず種によってどんな色を認識できるのか、どんな違いがあるのかを理解する必要がありますね」とプライス氏は言う。「今回の研究がそのさきがけとなるでしょう」

(文 VIRGINIA MORELL、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年6月18日付]