2020/7/11

それを研究室に持ち帰り、細かいメッシュを使って軟体動物や小型のカニなどの大きめの生物と、小型底生動物とを分離した。そして顕微鏡で調べながら、分類と識別を行った。

「初めてサンプルを見るときは興奮します。何が出てくるかわからないのですから」

新型コロナウイルスの流行に伴う移動制限により、今年6月に巣に帰ってくるアカウミガメを調査することはできない。しかしインゲルス氏は、カメがどんな新しい生きものを連れ帰ってくるのか、来年はぜひ調査を行いたいと考えている。特に楽しみにしているのは、すでに調査を行い、印をつけたカメだ。

海の「運び屋」

この研究から浮上した謎がある。そもそもこの微小生物たちは、どうやってカメに乗りこんだのだろうか。また、微小生物の移動にとって、カメはどのくらい重要な役割を果たしているのだろうか。

このヒッチハイカーたちが乗りこんだのは、カメが海底で食事をしているときだと考えられる。海底は小型底生動物の宝庫だ。カメが食事をする際に小さな生きものたちが舞い上がり、一部が甲羅の上に降りてくるのだろうとインゲルス氏は言う。

ウミガメの生態に詳しい米ウェスタンコネチカット州立大学のセオドラ・ピヌー教授(今回の研究とは無関係)は、甲羅が特別に住みやすいからではなく、単なる活動や環境の結果だろうと話す。

「カメが引き寄せるわけではないと思います」とピヌー氏は言う。ピヌー氏は、大西洋のアカウミガメが太平洋のアカウミガメよりも多くの微小生物を運んでいることを発見しているが、それは環境条件や小型底生動物自体の生育数による違いだと考えている。

生きものたちがどのようにして乗り込んだにせよ、カメは船となって小さな生きものたちをあちこちに運んでいく。これは、小さな生きものたちが広く分散している理由を説明する際に役立つかもしれない。このような生きものは長い距離を泳いだり、外洋で長い間生きたりすることはできないため、世界中に広く分散している理由はよくわかっていない。

「浮かんでいるエボシガイや海氷に運ばれる生物もいるかもしれませんが、ウミガメが運ぶ量や頻度は桁違いのはずです」とインゲルス氏は言う。

次なる挑戦

長距離を移動するウミガメを追跡することは難しく、費用もかかる。小さなヒッチハイカーやその食べものを調べることで、どこでカメに乗りこんだのかや、どこを通ってきたのかがわかるかもしれない。インゲルス氏は、今後、そのような調査を行いたいと考えている。

小型底生動物に関するそのような調査はまだ行われていない。しかし、アオウミガメやアカウミガメについているフジツボの化学的組成を調べる研究は行われている。フジツボの殻の同位体組成を調べれば、温度や塩分濃度など、通ってきた場所の条件がわかる。そこから移動経路を推測することができる。

「詳しく調べれば調べるほど、新たな発見があるのです」とロビンソン氏は話している。

(文 CORRYN WETZEL、訳 鈴木和博、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2020年6月18日付]

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