2020/7/11

甲羅の上の多彩な面々

「小型底生動物は、他の生きものが入り込むことができない小さな空間に入ることができます」とインゲルス氏は言う。そのため、カメの上にこのような生きものがいることは予想されていた。しかし、これほどの数がいることは驚きだった。

見つかった生きものには、線虫も含まれている。これは、地中で広く見られるミミズなどの生きものによく似ている。また、端脚(たんきゃく)類と呼ばれるエビのような生きものや、カイアシ類と呼ばれる小型甲殻類、さらにはヒドロ虫と呼ばれるクラゲのような捕食動物も見つかった。

アカウミガメの甲羅から無数に見つかった端脚類の一種であるワレカラの仲間。24匹のアカウミガメから、合計10万匹以上のワレカラが見つかった(PHOTOGRAPH BY DR. JEROEN INGELS)

インゲルス氏は、甲羅の上では厳しい生存競争が繰り広げられていると述べている。エビやカニなど、大き目のヒッチハイカーはすぐそばにいる小さな生きものを狙うことが多い。線虫は甲羅の上のバクテリアや、デトリタスと呼ばれる死んだ有機体の堆積物を食べるが、場合によっては別の線虫を食べることもある。

「とても小さな世界ですが、非常に多様で、さまざまな相互作用が起こっています。しかし、詳しいことはまだほとんどわかっていません」

フジツボなどの大きなものの中には、固着して甲羅を傷つけたり移動の邪魔になったりするものもいる。しかし、カムフラージュという点では役に立つ。一方、小型底生動物は甲羅を傷つけることはないと思われる。「もちろんカメにも寄生生物や有害な生物はいますが、小型底生動物は違います」とインゲルス氏は言う。

スペイン、バレンシアの海洋学財団でウミガメを研究しているネイサン・ロビンソン氏(今回の研究とは無関係)は、ウミガメの甲羅に多様な生物がいることには納得できると話す。「ウミガメという船は、海を移動する完璧なプラットフォームです。食べものが豊富な海流にいつも連れて行ってくれるのですから」。これは、フジツボやカイメンなど、触手やえらなどでエサを濾過するように食べる動物には大きなメリットになる。

ウミガメに細心の配慮

インゲルス氏らがセント・ジョージ島を選んだのは、メキシコ湾の北岸でアカウミガメが特に多く巣を作る場所だからだ。カメを探すときは、カメが嫌がらず、人間の暗視能力を妨げることもない赤色のヘッドランプを使った。カメを扱うにあたっては、フロリダ州魚類野生生物保護委員会による訓練と認定も必要だった。

インゲルス氏ら研究者は、カメのサンプル調査を手早く行った。カメに近づいたのは、カメが産卵して海に戻るときだけだ。「カメが卵をすべて産みきるのを妨げないことが重要です」とインゲルス氏は話す。

甲羅上の生物を収集するときは、ウミガメのそばでしゃがみこみ、プラスチック製のヘラで視認できる生物をそっと集めた。さらに、淡水をしみこませたスポンジを使って肉眼では見えない微小生物を回収した。

アカウミガメの甲羅から微小生物を回収する研究者たち。アカウミガメに害を与えないという条件のもと、フロリダ州魚類野生生物保護委員会の許可を得て調査を行った際に撮影した。通常、ウミガメに触れることは違法行為となる。カメに害を与えにくい赤色光を使って撮影し、それを処理して白黒にしている(PHOTOGRAPH BY DR. MATTHEW WARE)
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海の「運び屋」
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