加藤登紀子 「隠し子つくれば」と聞くと高倉健さんは編集委員 小林明

遺伝子は残した方がいい、「いいね」とノリノリだった健さん

加藤登紀子さん(左)のコンサートに出演した高倉健さん(1983年、東京・日比谷)

――健さんは江利チエミさんと離婚した後、独身を貫きましたからね。反応はどうでしたか。

「すると、怒られるわけでもなく、意外にも本人が面白がって、『それ、いいね。じゃ、隠し子、つくっちゃおうか……。あの娘なんかどうだろう?』なんて笑いながらノリノリで答えてくれました。おかげでその場は大爆笑。健さんって、無口なイメージがあるけど、普段はよくしゃべるし、とても陽気で冗談好きなんです。ただ人への気配りはきめ細かいし、とても心が温かい人。それは強く印象に残っています」

――映画出演で演技の極意はつかめましたか。

「クランクインで私、ひどく緊張しちゃって、セリフを言った後、『キーが少し高かったかしら』なんてつぶやいてしまった。そしたら健さんが『キーなんて気にしないでくださいよ』とゲラゲラ笑い出したんです。『演技なんてしなくていいですから。そこで遊んでいてください』とも言われた。それで気分が一気にほぐれて、後の撮影は楽に臨めるようになりました」

「健さんがすごい名優だなと感心したのは、ここぞという演技は1度しかやらないこと。終盤に2人でやり取りする長回しのシーンがあって、最初はどうせ練習だろうと思って気軽にやっていたら、『はい、OKです』と言われてビックリ。あっさり本番が終わってしまった。『え、これでいいの?』とこちらが戸惑ったくらい……」

「『居酒屋兆治』は歌も思い出深いですね。函館の温泉旅館で皆で宴会したんですが、私は健さんが主演した『網走番外地』の主題歌を弾き語りで歌ったんです。それで『はい、2番をどうぞ』ってマイクを手渡したら、なんと健さんがそのまま歌い始めた。『ああいう場面では健さんはめったに歌わないんですよ』と周囲が驚いていました。そんなこともあり、健さんに映画の中で『時代おくれの酒場』を歌ってほしいと願いしたら、すんなり快諾してくれました。こうして健さんの歌声が映画のエンディングに流れることになったんです」

貫禄あった加賀まりこさん、立ちたくない理由は二日酔い

高倉健さんや宮崎駿監督、加賀まりこさんらとの貴重なエピソードを語る加藤登紀子さん

――加藤さんは東京大学演劇研究会出身ですが、もともと演技に興味があったんですか。

「ええ、かつて女優を夢見た時期もありましたね。発声練習や身体訓練に励みながら、女優、衣装係、小道具を掛け持ちしていました。出演3作目かな。英国の劇作家アーノルド・ウェスカーの『大麦入りのチキンスープ』で主役も演じています。英国の下町の肝っ玉母さんの役。あまり知られていませんけど、実は『居酒屋兆治』に出る前、渡哲也さん主演の日活のヤクザ映画『拳銃無宿 脱獄のブルース』(65年)にも歌手役で出ているんですよ」

――テレビドラマはどうですか。

「『お多江さん』(68年TBS系で放映)というホームドラマに加賀まりこさん、中山千夏さん、淡島千景さん、加東大介さんらと出演したこともあります。加賀さん、中山さんとはいつも一緒。よく飲み歩いていたので面白かった。加賀さんは私と同い年だけど、堂々としていて貫禄がすごいんです。たとえばドラマの立ちげいこで、演出家が『すみません、加賀さん。立ってやってもらえませんか』と頼んでも、『なぜ立たないといけないの? 私、立たなくていいと思います』なんて全然言うことを聞いてくれない。演出家はオロオロするばかり。でも、本当は二日酔いが理由で加賀さんが立ちたくなかったことを知っていたから、私たちは陰でクスクス笑っていました」

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