2本足で歩くワニ なぜ消えた?韓国で1億年前の足跡

日経ナショナル ジオグラフィック社

2020/6/28

なぜ現れ消えた、二足歩行

1億年前のワニが二足歩行をしていたとしたら、なぜ今日のワニは四つ足で這い回っているのだろうか? ロックリー氏は、白亜紀の一部の動物にとっては、多くの肉食恐竜と同じように、後足で立って高い姿勢をとるほうが有利だったのではないかと考えている。「当時は見渡すかぎり平坦な風景が広がっていて、走り回ったり視覚に頼って狩りをしたりするのに適していたのでしょう」

今回の足跡化石については、ワニが水面に浮かびながら、足で湖底を蹴って前進していたと考えることもできる。しかしロックリー氏は、もしそうならば、これほど規則的な間隔で並んだきれいな足跡は残らなかったと考えている。

「ワニが沼の底にどのような足跡を残すか確認するために、沼の水を全部抜いた人はまだいません」と彼は言う。「けれどもワニは、つま先だけで沼の底を蹴り、足全体をしっかり底につけることはないと考えられています」

米ウエスタン・コロラド大学の足跡化石の専門家ライアン・キング氏も、「最初に泳ぎを考えた」ものの、それなら足の全体ではなく、つま先の印象だけが残るはずだと言う。「そのうえ、足裏の肉球や皮膚の模様の跡まで残っているのですから、この足跡は水底ではなく、湿りけのある陸上の固い土につけられたのでしょう」

バトラコプス・グランディスは足跡化石のみに基づいて新種と同定されたが、この足跡化石と一致する骨格化石はまだ見つかっていない。プロトスクス属(Protosuchus)という絶滅したワニ形上目は、今回発見された化石のような足跡を残すと考えられているが、確かなことはわかっていない。

ワニの仲間バトラコプス・グランディスの良好な保存状態の足跡化石(PHOTOGRAPH BY KYUNG SOO KIM, CHINJU NATIONAL UNIVERSITY OF EDUCATION, KYUNGNAM, SOUTH KOREA)

「足跡と体の化石が同じ場所で見つかれば、両者の結びつきは明らかなのですが、残念ながら、足跡と同じ場所で死んで化石になった動物はほとんど見つかっていないのです」とロックリー氏は言う。

生痕化石を専門とする研究者は、化石骨を研究している古生物学者たちが足跡にもっと注目してくれればいいのにと思うことがあるという。なにしろ生痕化石は、「生きていて骨がまだ皮膚に覆われていた頃の動物と、その行動の痕跡なのです」とロックリー氏は言う。前足や後足の骨を足跡化石と対応づけられることもあるが、「それらの部位は壊れやすく、多くの動物については良い化石が残っていません」

二足歩行のワニ形上目は、温血の哺乳類との競争に敗れて姿を消していったようだ。「今日のサバンナにアンテロープ(レイヨウ)を走って追いかけるワニがいないのは、そのせいかもしれません」とロックリー氏は言う。しかし、アンテロープがケニアとタンザニアを流れるマラ川を渡るときには、今でもワニに気をつけなければならない。

(文 TIM VERNIMMEN、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年6月15日付の記事を再構成]

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