レタスクラブの編集長を退任し、ファンベースカンパニーに転職してから、半年強が過ぎたところです。ファンベースカンパニーはベンチャー企業ですが、まさにSFアクション映画「アベンジャーズ」並みにいろいろな会社からあらゆる技をもったメンバーが集結しており、その人材の多彩さに毎日刺激を受けています。同時に、自分自身が丸腰で無能だということにも気づかされる日々です。でも、私が転職前に求めていたのはまさにこの「無能感」なのだと、最近はしみじみ感じています。一度、自分がゼロにリセットされ、そこからもう一度立ち上がる七転び八起きの日々がほしかったのだと。
畑違いのマーケティングの世界に飛び込んで
出版畑から「ファンベース」というマーケティングの世界に転職しましたが、最初は「メンバーの扱う用語がわからない」という状況でした。マーケティングの用語には、いわゆる「カタカナ語」が多く、アナログな世界ですくすくと育った私は、目を白黒させておりました。
さまざまな業種から転職してきた30代のメンバーたちのしなやかさと意識の高さ、そして能力の高さに驚かされながら、「それに比べて私は……」と落ち込むことも多々ありました。しかし、この「無力感」こそ、私が求めていたものでもありましたから、予想していた通りとも言えます。
「マーケティング」に対する私のイメージは「数字で人の動きを見る世界」なのですが、「ファンベース」は数字ではなく、「人の感情を見る世界」。他に明確に表現できる単語が今のところ見当たらないので、今の仕事を「マーケティング」と言っていますが、実はこの言葉はあまりしっくりきていません。おそらく私以外のメンバーも全員。
人間の行動観察的な視点や、傾聴の姿勢、感情の機微を言語化していく細やかな世界。その企業の、その商品のファンの方がどういうインサイト(洞察力)をもっていて、何が響いているのか、その埋め込まれているツボをそっとすくい上げる感じです。
書籍編集者だった頃、読者に対してなんとなくの勘や本能でやっていたことが、ファンベースの文脈で丁寧に見ていくと、きちんと順を追って体現されていく感覚です。これが本当に、面白い。畑違いの世界に飛び込んだといっても、私がこれまでやってきたことと根本的な部分ではつながっています。