著者は様々な角度から自由貿易の利益と不利益を分析していきました。経済学的な考え方では、自由貿易は世界の富を増やします。著者はまず「ものと人、そしてアイデアや文化の交流が世界を豊かにしてきたことはまちがいない」と指摘します。

ただし、全ての人に恩恵があるわけではありません。「いいタイミングでいい場所に居合わせ、しかるべきスキルやアイデアを持ち合わせていた幸運な人たちは裕福になった」けれども、「それ以外の大勢の人々にとっては、いいことばかりだったとは言えない」のです。結局、著者は「今や、移民問題とともに政治の行方を決する要因になっているのは、貿易の負の影響だと言える」と判断します。ここで、保護関税の是非について議論した下りを引用します。

 では、保護関税は問題の解決に役立つのか。答えはノーだ。関税の導入は、アメリカ人を助けることにならない。理由は単純だ。ここまでの議論で私たちが主張したいことの一つは、移行期にもっと注意を払う必要がある、ということである。チャイナ・ショックで解雇された人の多くは、ショックに見舞われる前の生活水準を回復できていない。なぜなら経済というものは硬直的だからだ。彼らは別の産業や別の土地へ移って自立することができない。リソースも移動しない。
 だからといって中国との貿易をいま打ち切るのは、新たな解雇を生むだけである。新たに負け組になるのは、おそらくはこれまで名前を聞いたこともない郡で生活している人々――農村地帯の人々だ。なぜ聞いたこともないかと言えば、何の問題もなく暮らしているのでニュースにならないからである。
(Chapter3 自由貿易はいいことか? 138ページ)

次いで、経済成長について考えてみましょう。よく知られているように経済は周期的に好不況の波に見舞われます。それでは、長い目で見ると経済は成長を続けていくのでしょうか。それとも、必然的に停滞に陥るのでしょうか。経済学にとって根本的なテーマですが、実は経済学者は誰も答えを持っていません。

著者はインドの経済発展の事例を引き合いに出します。インドの製造業は02年ごろから工場への最新技術の導入が進みました。「インド製造業の奇跡」という声がありましたが、著者はこの見方に賛成しません。当時のインドの経済状況は「奇跡でもなんでもなく、最悪のスタートからの小幅の改善に過ぎない」からです。そして、「どんな経済政策を導入したら今後も発展が続くのかはまったくわからない」と指摘します。

 不幸なことだが、経済学者はなぜ成長するかをわかっていないうえに、なぜ停滞する国としない国があるのか(韓国は成長し続けているのになぜメキシコはそうでないのか)も理解しておらず、停滞からどう抜け出すかもはっきりわかっていないのである。
(Chapter5 成長の終焉? 295ページ)
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