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天才という言葉は岡村靖幸のためにある(川谷絵音)

ヒットの理由がありあまる(23)

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NIKKEI STYLE

僕らの岡村ちゃんこと岡村靖幸さんが4年ぶりのニューアルバム『操』をリリースしました。

岡村ちゃんは僕の飲み友達であり、尊敬する大先輩だ。僕は先日、『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)の岡村靖幸特集にも出演し、岡村ちゃんのすごさについて語らせてもらったのだが、まず岡村靖幸というアーティストは"天才"だ。何がって、それはもう圧倒的な個性。よく個性と言われるが、極論を言えば岡村ちゃんに比べたら、みんなの個性はある程度まねできてしまうものであって、圧倒的ではない。ステージに出た時のあの存在感や、30年間誰も似た人が出てきていないことなどを考えても、1つ確かなのは、天才という言葉が岡村靖幸のためにあるということだ。

ここまでは僕の偏見もかなりあるが(笑)、次に岡村ちゃんの音楽面の話をしていこう。もともと、「日本語はファンクの乗りに合わない」と昔から言われてきた。跳ねたビートに子音中心のべたっとした日本語は相性が悪かったからだ。しかし岡村ちゃんは、その概念を変えた。韻を巧みに踏み、岡村語ともいえる造語を多数生み出し、日本語とファンクを両立させた。岡村語として有名なのは『(E)na』で「かっこいいな」と読ませるこのタイトル。現代のネット文化でなら生まれそうな言葉だが、1990年のアルバムですからね。どんな先見の明よ、と驚くしかない。

『聖書』での「Crazy×12-3=me」のフレーズも岡村語の代表格。意味は諸説あるし、正解は分からないので語らないが、これが30年前という恐ろしさ。日本語の音楽への乗せ方に革命を起こしたという点だけでも、岡村ちゃんが天才だということに異を唱える人はいないだろう。ちなみにこの算数的な歌詞は、今回のアルバムにも出てくる。『赤裸々なほどやましく』の冒頭の「3+6みたいに10から1引きゃ9になるから」だ。これもいろいろな解釈ができる上に、かなり頭に残る僕が好きな歌詞だ。

さて、そんな岡村ちゃんはずっと恋愛について歌っている。30年間ずっと報われない恋愛、というか妄想じみただらしない男の恋愛を描き続けている。あんなにかっこよく踊って歌う岡村ちゃんがだ。でもそのギャップが激しすぎて、それがクールに見えるのだ。ギャップはあるならあるほうが良い。ステージでの岡村ちゃんの圧倒的なかっこよさと、歌詞の中での恋愛がうまくできない男性像が違いすぎて、そのギャップに泣けてしまうのだ。

「結婚したいしたい」と言いながら、50歳を超えても結婚しない岡村ちゃん。30年間ずっと成就しない恋愛を歌い続けながらも、音楽は最先端を走り続けている。そんなスタイル他に誰がいるだろうか。岡村靖幸は、"自分らしさを常に中心に据え、変化し続ける"という、最もクールで難しいことを体現している数少ないアーティストなのだ。だからこそ、岡村ちゃんがアルバムをリリースするというだけで、ミュージシャンをはじめ業界全体が注目する。

コラボで自らをアップデート

『関ジャム』でも冒頭で放送されたが、ミスチル(Mr. Children)の桜井(和寿)さんが「岡村靖幸Part2」になりたいと発言したことからも分かるように、トップを走っているミュージシャンはより岡村ちゃんのすごみが分かるのだろう。

あと岡村ちゃんといえば、最近はコラボも多い。本作でもDAOKOやライムスターとのコラボ曲が収録されているが、岡村ちゃんはコラボしながら自分のアップデートを図っている。DAOKOのようなキャッチーな存在の横で踊っている岡村ちゃんは、いい意味でソロよりマイルドな存在となり、すごさを丁度よく見せることに成功している。

ああ、全然文字数が足りなくてニューアルバムについて全然書けなかった(笑)。これで気になった人はまずコラボ作品からぜひ聴いてみてほしい。一度入口を通過してしまえば、すぐに沼が広がっているはず。それが岡村靖幸だ。

川谷絵音
1988年12月3日生まれ、長崎県出身。ゲスの極み乙女。、indigo la End、ジェニーハイ、ichikoroといったバンドのボーカルやギターとして多彩に活動中。ゲスの極み乙女。は、ニューアルバム『ストリーミング、CD、レコード』を6月17日に発売。

[日経エンタテインメント! 2020年6月号の記事を再構成]

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