湖池屋ポテチの再ヒット 3カ月で売り上げ20億円超え
湖池屋はポテトチップス「KOIKEYA PRIDE POTATO」を2020年2月にリニューアルし、「湖池屋プライドポテト」に変更した。発売から約3カ月で早くも売り上げは20億円突破。もともと人気商品だったが、17年2月の発売から3年たった今、再ヒットにつなげた理由を探った。
ヒット商品、あえてリニューアルの理由
湖池屋が17年2月に発売した「KOIKEYA PRIDE POTATO」は、年間20億円を売り上げればヒットといわれる菓子市場で、2倍に当たる約40億円を達成した。発売から3年後となる20年2月にリニューアルを実施し、表記を「湖池屋プライドポテト」に改めた。これが奏功し、17年2月の売り上げと比較して1.2倍、発売3カ月で売り上げは20億円を突破した。
発売初年度からヒットを飛ばした人気商品だったにもかかわらず、あえてリニューアルしたのはなぜか。湖池屋マーケティング部の高戸万里那氏はその理由を「KOIKEYA PRIDE POTATOを発売して3年たったが、ブランドが認知されていないという課題があり、売り上げも横ばいになっていた。勢いをもう一度取り戻すため、リニューアルに踏み切った」と説明する。
商品の入れ替わりが激しく、ヒットしない商品はすぐに消えていく菓子市場。一定の売り上げがあれば、リニューアルの必要はなさそうなもの。しかし「プライドポテト」に懸けた思いは、他の商品とは違ったようだ。「16年10月に湖池屋はコーポレートブランドの統合を実施した。新生湖池屋を代表するブランドとして、スナック界で確立したブランドになるまで育てたかった」(高戸氏)。
湖池屋マーケティング部次長の野間和香奈氏は、「デザイン・中身・プロモーションの3つで相乗効果が出た」とリニューアル後のヒットの理由を分析する。それぞれ詳しくひもといていこう。
原点に立ち返ったパッケージデザイン
17年のKOIKEYA PRIDE POTATO発売当時、今までのポテトチップスにはないスタイリッシュなパッケージが評価され、消費者にインパクトを与え、ヒットに結び付いた。その後、市場に定着させるため、パッケージデザインを18年に2回、19年に2回、刷新を重ねた。
発売した17年の調子はよかったものの、その後約2年間は試行錯誤が続いたという。「KOIKEYA PRIDE POTATOとは何なのか迷子になっていた」と高戸氏は打ち明ける。市場調査では、消費者がKOIKEYA PRIDE POTATOを認識していないという結果も出た。それでも湖池屋はKOIKEYA PRIDE POTATOの可能性を捨てきれなかった。
「17年に発売したときのインパクトが尋常ではなかったので、まだチャンスはあると思った。KOIKEYA PRIDE POTATOをもう一度アピールするため、原点に立ち返って考えた」(高戸氏)
そこで20年2月のリニューアルでは、発売時の白ベースのデザインに戻した。英語表記で認識されにくかった文字は、「プライドポテト」とカタカナ表記に。ポテトチップスの写真は「小さいポテトチップスが入っていると思った」「何か分からなかった」というお客の声を反映し、大きくした。フレーバーのネーミングも「本格」「秘伝」などの情緒的な表現にするか、製法をアピールするか、どちらが購買意欲をかき立てるのか検証を重ねた。
「わずかな差だが、店頭で見たときの印象をどれだけ変えられるかを重視した。スタイリッシュにしつつ、おいしそうな感じを伝えられるようにできたと思う」と高戸氏は自信をのぞかせる。
今回のリニューアルにかけた期間は6カ月。既に発売している商品のリニューアルにしては、異例の長さだという。また通常なら発売の4カ月前に確定するパッケージは、発売2カ月前に決まった。「ある程度決まっても、もう少し調査をかけよう、再考しようと試行錯誤し、ぎりぎりまで粘った」と高戸氏は振り返る。
ほぼ味付けされていないポテトチップスがヒット
リニューアル後のプライドポテトシリーズは、おいしさにも定評がある。うま味の濃いジャガイモを選定し、スライスして湯洗いせずにそのまま揚げている。なおかつ塩やコンソメで味付けする前に、かつおだしがきいた下味を染み込ませ、奥深い味わいに仕上げた。特に今回発売された4種類の中には、「芋まるごと 食塩不使用」という味付けされていない商品がある。シンプルだが思い切って攻めた感のあるこの発想は、どこから生まれたのだろう。
「18年11月に『ポテトの素顔』という、普通のポテトスライスを揚げただけの商品を販売していた。アレンジしていただく目的だったが、そのまま食べるには物足りなく感じられるのでは、と思っていたら、『ポテトチップスそのままの味っておいしい』という声をいただいた」(野間氏)
「私たちは、何か味付けしなければいけないと考えていた」と言う野間氏は、目からうろこが落ちた思いだったと振り返る。お客様センターには、他にも「体のことを考えてポテトチップスは控えていたけれど、塩分がないから食べられた」などの声も届いたそうだ。
ジャガイモの味をそのまま食べたい人と、塩分を控えたい人。主にこの2つの客層があると考え、ジャガイモのうま味を最大限に生かす味付けと製法で作り替えた。「健康とおいしさを掛け合わせた、今までにないポテトチップスができると思い、挑戦した」(高戸氏)。
プロモーションは「体に悪くない」というイメージで
プライドポテトはオールターゲットの商品だ。そのためテレビCM、SNS、街頭ボード、店頭での販促など、「やれることは全部やって、商品への接点を増やすことに注力した」と高戸氏。
今回のCMキャラクターは、「芋まるごと」はラグビーの田村優選手、「神のり塩」は現役高校生でモデルの汐谷友希さん。2人の起用には「ポテトチップスはジャンクなものというイメージから、みんなが食べていいものに思えるようにしたい」という狙いが込められている。
「芋まるごとでは、食塩不使用という新しさと、スポーツ選手でもおいしそうに食べているイメージをつくりたかった。のり塩は年齢層高めの方が購入する傾向にあるので、若い女の子を起用した。若年層の女性も手や歯に付くことを気にせずに、おいしく食べてほしい」(高戸氏)。狙いの異なる2つのCMで、間口の広がりを実感しているという。
湖池屋がプライドを懸けたこの商品。一時は停滞気味だったが、発売から3年後のリニューアルで売り上げを大きく伸ばすという、異例のヒットとなった。会社を代表するブランドにしたいという思いを持った社員の、粘り勝ちと言えるだろう。
(文・写真 梶塚美帆)
[日経クロストレンド 2020年6月12日の記事を再構成]
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