持続感染か、再感染か

科学者たちは持続性によってウイルスを3つに分類している。1つめはノロウイルスのように、急性感染症を引き起こし、感染者はすぐに発症し、数日後には完全に回復するもの。2つめは水痘帯状疱疹ウイルスのように、初感染時に水痘(水ぼうそう)を引き起こすが、その後は患者の神経細胞に潜伏して一生をともに過ごす。3つめは、ほとんどの人では急性の感染になるが、一部の人ではウイルスは体内から排除されず、持続感染となる。ポリオウイルスがその1例だ。

新型コロナウイルスの場合、事態を複雑にしている要因の1つは、医師や研究者が診断にPCR検査を利用していることだ。この検査では、鼻咽頭ぬぐい液や唾液、便、尿などの分泌物を採取し、ウイルスの遺伝子断片を探す。そのため、検査を受けた人が感染しているかどうかはわかるが、ウイルスの感染力がどのぐらいかまではわからない。

「ウイルスが感染力を失っていても、まだRNAが検出される期間があるのです」と米ジョンズ・ホプキンズ大学の感染症研究者アンドリュー・カラバ氏は説明する。

研究者が生きたウイルスを調べるには、細胞培養フラスコやシャーレでウイルスを培養しなければならないが、これは容易ではない。感染者の鼻腔をぬぐった綿棒を乾燥させてしまったり、感染した細胞を取り損ねたりすることがあるほか、サンプルに含まれるウイルス粒子が少なすぎて増やせないこともある。さらに、新型コロナウイルスの分離と研究は「BSL(バイオセーフティーレベル)3」以上の安全な実験室で行うべきだと米疾病対策センター(CDC)は推奨しており、日本の国立感染症研究所も同様に定めている。

生きた新型コロナウイルスの研究例はまだ限られているが、いくつかの研究ではウイルスの持続期間の手がかりが得られている。20年4月1日付で学術誌「ネイチャー」に発表された、ドイツで9人の軽症患者を対象に実施された研究では、発症から9日後以降に喉をぬぐった綿棒や唾液サンプルからは、ウイルスを培養できなかった。この研究からは、感染者が最初の数日間に大量のウイルスRNAを排出することも明らかになった。

4月23日付で学術誌「ネイチャーメディシン」に発表された別の研究では、発症から1週間以内の9人の新型コロナウイルス感染症患者から生きたウイルスが分離された。1人の患者は、発症8日後に採取したサンプルにも培養可能なウイルスが含まれていた。さらに、発症31日後以降に採取されたサンプルでも、複数からウイルスRNA断片が確認された。

5月28日付で学術誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表された研究では、老人ホームの入居者89人を調べた結果、患者が最長で発症9日後まで培養できるウイルスを排出しうることがわかった。

次のページ
大きな個人差がワクチン開発の壁に
ナショジオメルマガ