新型コロナウイルスで、いわゆる「3密」を避ける行動が求められるなか、住まいを買ったり借りたりする一連の風景も大きく変わりそうです。住宅ジャーナリストの榊淳司さんは「モデルルームなどの『にぎわい演出』が制限され、客からすれば物件の本来の姿を見つめやすくなる」と予想します。
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コロナ以前、「人と会う」行為は肯定的に捉えられることが多かったのではないでしょうか。新人の営業マンに「1日に名刺〇〇枚をもらってこい」などとノルマを課し、街に送り出していた時代もありました。対人接触を絶対的に「よし」とする発想です。
初めて電話でコンタクトしたビジネスの相手に「一度ごあいさつに伺いたいと存じますが……」と面会を求めるのは、当たり前の手続きでした。しかし、コロナ以後は「むやみに面談を求めてはいけない」というのがビジネスのマナーになりそうです。
これは不動産仲介の世界にも少なからぬ変化をもたらしそうです。
客に何十件も物件を案内、業者はやめたい
例えば、中古マンションを買いたい客に対し、希望する条件に合った物件を営業マンが何件も案内するのが普通でした。しかし、客によっては何十件も案内したのに購入を決めてくれないこともあります。それでも、仲介業者は客に一切の料金を請求できません。
客によっては、半ばそれを楽しんでいる場合さえあります。本当は買う意欲はさほど強くないのだけれども、購入を決めないうちは営業マンが丁寧に接客してくれます。だからその状態を続けたいがために、ダラダラと決めないでいる客もいるのです。
コロナ後は仲介業者としても、「決めてくれるまで何件でも案内する」という接客スタイルはなるべく避けたいでしょう。
部屋の様子など、VRでほぼ理解
そこでまず考えられるのは、動画の積極的な活用です。
売りに出した物件の周辺の環境や室内の様子などを10分程度の動画にまとめ、客に見せます。客はいくつか見たなかから気に入った1~2物件のみを実際に見に行きます。これなら購入の「決定率」が格段に高くなりそうです。これで、客も業者も互いに「濃厚接触」をかなり避けることができます。
さらに室内の様子をVR(仮想現実)で「見学」できるようにすれば、客は住戸のなかに入らずとも、おおよそのところはほぼ映像で理解できるはずです。
例えば、客が見ている映像を仲介業者の担当者のパソコンに同時配信するようなシステムなら、実際に現場で客を案内しているのに近い状況をつくり出せます。