体重、血圧などを記録し変化を観察、水分摂取の目安にも
水分摂取は、脱水を防ぐだけでなく、体を冷やすという意味でも大切だ。そのために、三宅さんは「保冷力のある広口の水筒やマグボトルに、氷を入れて持ち歩くといい」と言う。自動販売機やコンビニでペットボトルの飲料を買っても、すぐに温まってしまう。そこで、買ったらすぐに氷の入った水筒に注いでおけば、いつでも冷たい状態をキープできるというわけだ。もちろん、自宅から冷たい飲料を入れて持ち歩いてもいいが、足りなくなることもあるので、氷は入れておくといいだろう。
先に触れた「熱中症予防行動」では、水分は1日当たり1.2リットルを目安に、のどが渇く前にこまめにとること、大量に汗をかいたときは塩分も補給することを勧めている。しかし、三宅さんはこれもあくまで目安であり、「その人の年齢や体格、腎機能の状態などによって必要な水分摂取量は違ってきます。高血圧や心不全といった持病で水分や塩分の摂取に制限がある人は、夏に急に水分や塩分をとるようになることで、症状が悪化することもあるので注意が必要」だという。
適切な水分摂取量を見極めるためには、目安の水分量をとりながら、尿の色や量、体重や血圧、心拍数の変化を観察することが有効だ。「腎機能が正常なら、水を飲む量が多過ぎれば尿量が増え、少なければ尿量が減って色も濃くなる。体重が増えれば水分や塩分のとり過ぎ、減れば栄養状態の悪化や脱水気味が考えられる。血圧が高くなれば水分・塩分のとり過ぎですが、心拍数も増えていれば、逆に脱水気味が疑われます」(三宅さん)
こうした判断を自分でするのは難しいが、毎日の変化を記録すれば体調管理に役立ち、受診の際にかかりつけ医に見せれば、評価の指標や生活指導の参考になる。
必要な水分量を摂取するには、意識的に習慣づけることも大切だ。朝・昼・夜と食事をするときには水やお茶を飲むようにし、午前10時や午後3時など、時間を決めて水分を多めにとるようにする。マスクをしているときにはより一層、こまめに水分補給を心がける。
食欲の低下や体調不良などで水分や塩分がとりづらいときには、経口補水液やスポーツ飲料で補給するといいが、「経口補水液は病者用食品のため、食事がきちんとできていれば、予防的に飲む必要はありません」(三宅さん)
熱中症のリスクが高い高齢者には頻繁な声がけを
日本救急医学会などによる提言にもあるように、一人暮らしの高齢者など熱中症のリスクが高い人とは、頻繁に連絡を取ることも重要だと、三宅さんは強調する。高齢者は基礎代謝が落ちることで、熱産生量が低くなり、体温も低下するので、気温が高くなっても暑いと感じにくい。そのため、「猛暑日や熱帯夜が数日続いたときに、気づかぬうちに熱中症になり、救急搬送されるケースが多い」(三宅さん)という。
そうした事態を避けるためには、例えば、室温が高まる午後2時に電話をして、エアコンをつけているかを尋ね、つけていなければスイッチを入れるように促す。さらに、2~3時間後にも再び電話をして、エアコンがついているか確認するくらいの世話焼きが必要だと、三宅さんは話す。
「それ以前に、エアコンがちゃんと冷房になっているか、下着や洋服、寝具が冬用のままになっていないかなども、確認した方がいいでしょう」(三宅さん)
消防庁の発表でも、2019年5月から9月の全国における熱中症による救急搬送は、65歳以上が首位で全体の52%を占め、発生場所は住居が最も多かった。高齢者には三宅さんの言うように、念には念を入れるくらいの対応が必要なのだろう。
熱中症の症状は人それぞれだが、立ちくらみやめまい、食欲の低下、倦怠(けんたい)感といったいつもとは違った体調を感じたら、熱中症を疑って、涼しい場所で休んで体を冷やし、水分をしっかりとる。高齢者の場合は自分では気づきにくいので、やはり周囲が気にかけて様子を見ておくことが大切だ。
(ライター 田村知子)
[日経Gooday2020年6月9日付記事を再構成]
