日本人のがんリスク お酒の影響が一番大きい部位は?飲酒とがんリスク(下)

日経Gooday

また、胃がん(1.06倍)、大腸がん(1.08倍)なども、がん全体と比べてリスクが若干高くなっている。女性の私としては、乳がんのリスクが1.08倍と、がん全体のリスク(1.05倍)より高くなっていることも気になるところだ。

じつは飲酒は乳がんのリスク要因の1つ。今回の研究で、少量であってもリスクになるという結果が出た。女性はアルコールの分解能力が低いケースが多いだけに、より一層お酒の飲み方に注意せねばなるまい。このほか、子宮頸がん(1.12倍)、前立腺がん(1.07倍)などもリスクは高めだ。

国立がん研究センターが評価する飲酒によるがんのリスクは?

国立がん研究センターでは、日本人のがんと生活習慣との因果関係の評価を行っている。国内外の最新の研究結果を基に、全体および個々の部位のがんについてリスク評価を「がんのリスク・予防要因 評価一覧」としてホームページで公開している。「データ不十分」⇒「可能性あり」⇒「ほぼ確実」⇒「確実」の順に科学的根拠としての信頼性が高くなる。

この評価では、「飲酒」により全部位のがんのリスクが上がるのが「確実」となっている。部位別に見ると、「食道」「肝臓」「大腸」が確実になっている。
国立がん研究センターの「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」の「エビデンスの評価」の一部。(国立がん研究センターのホームページより一部抜粋)

注意すべきはお酒の種類ではなく、お酒の総量

少量の飲酒であっても、がんの罹患リスクが上がることが明らか――。こうした事実を踏まえても、酒好きが「酒を完全にやめる」というのは難しい…。せめて、がんのリスクができるだけ上がらないお酒の飲み方を実践したいところだ。

先生、がんの罹患リスクをできるだけ上げないためには、どんな飲み方がいいのでしょうか。醸造酒や蒸留酒といったお酒の種類を変えるといった対策はアリなのでしょうか…。

そう尋ねると財津さんは、「最も着目すべきポイントは『お酒の総量』、お酒の種類うんぬんより酒量です」と言い切る。

「アルコールそのものに発がん性があり、さらにアルコールの代謝副産物であるアセトアルデヒドもがんの原因となることが分かっています。私たち日本人は遺伝的にアセトアルデヒドの分解能力が低い人が一定数いますから、少量でも影響を受けやすいのです。このことから、飲み始めた年数から今に至るまでどれだけアルコールを飲み、そのリスクにどれだけさらされてきたかが重要となるのです」(財津さん)

薄々想像できたこととはいえ、結局のところ、お酒の量を減らす、それに尽きるということだ。ガックリ肩を落とす私たちに財津さんは優しくこうフォローしてくれた。

「本研究では『お酒は少量でもがんのリスクになる。飲まないに越したことはない』と結論づけましたが、実際のところ、お酒好きの人がお酒を完全にやめることは、なかなかできませんよね。しかし、この研究結果を知っているのと、知らないのとではお酒に対する『意識』が違ってくるのではないでしょうか。1日1合程度という適量を目標に、飲む量は減らしたほうがいい。『総量』に留意し、今飲んでいる量より『少しでも減らす』ことを目標にしてください」(財津さん)

お酒を飲むことが習慣化してしまうのが怖い

財津さんによると「お酒を飲むことが習慣化してしまうのが怖い」という。確かに、左党の多くは、さして飲みたくもないのに、飲むことが「クセ」になっている人が多いように思う。夕方になったら当たり前のようにカシュッとビールのプルトップを開ける、風呂あがりに水代わりにチューハイを飲む、仕事帰りにコンビニに寄って酒を買ってしまう…。左党がよく行う日常のクセを挙げたらキリがない。

「まずはこうした『飲むクセ』の行動を変えていくといいですね。最初は週一でいいので、飲まない日『休肝日』を作ってみましょう。ここで『一生で飲むお酒の量は決まっている』と考えてみてください。休肝日で『飲まない日貯金』をして、『飲酒寿命』を延ばすことを考えてみるのです」と財津さんは提案する。もちろん、休肝日を取ったからと、翌日倍の量を飲んでしまっては総量が変わらず、元の木阿弥である。飲む日も酒量は増やさず、できたら減らす方向にしたい。

繰り返すが、少量飲酒によるがんのリスクを考えた場合、重視すべきは「酒量」だ。休肝日の翌日も酒量を増やさず、「飲まない日」を貯金し、長く飲むための「飲酒寿命」を延ばしていきたい。

このほか、財津さんは、「お酒をストレス発散の道具にしたり、睡眠導入剤代わりにするのも避けてください」と話す。確かにこうした行動もまた「習慣化」を促進してしまいそうだ。

最後に、財津さん自身が飲酒について日々気をつけていることを教えていただいた。

「私自身もそうですが、他の方にお勧めしているのが『お酒と一緒に水を飲むこと』です。血中アルコール濃度の急激な上昇を抑制する効果もありますし、アルコールによる脱水を防ぐのにも役立ちます。このほか、一気に飲まない(ゆっくり飲む)、酒だけを飲まずに食べ物も一緒にとる、といったことも実践してください」(財津さん)

水を飲むことは、アルコールによるダメージを少なくさせ、悪酔い、二日酔いを防ぐことにつながる。本連載で登場した先生方が推奨しているのはもちろん、日本酒造組合中央会でも、日本酒の合間に水を飲むことを推奨している。

◇   ◇   ◇

イギリスでは公衆衛生キャンペーンの「Dry January」(1月の禁酒月間)、オーストラリアでは募金活動でアルコールをやめることを奨励する「Sober October」(10月の禁酒月間)があり、世界的に見ても「健康のために酒量を減らそう」という動きが高まっているように思う。

酒にはいい面も、悪い面もある。そして今回の研究から、日本人において、少量の飲酒であってもがんのリスクがあることが明らかとなった。これからの人生、お酒を長く楽しむためにも、カラダに留意しながら、お酒の「総量」を意識し、「飲まない日貯金」を今日から始めてみてはいかがだろうか?

(文 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト、図版 増田真一)

[日経Gooday2020年5月14日付記事を再構成]

財津將嘉さん
獨協医科大学医学部 公衆衛生学講座 准教授。2003年九州大学医学部卒業、2016年東京大学大学院博士課程修了(医学博士)。東大病院、墨東病院、北里大学病院、関東労災病院にて泌尿器科と麻酔科の臨床および研究に従事。2016年より東京大学大学院 医学系研究科 公衆衛生学 助教およびハーバード公衆衛生大学院客員研究員、2020年4月より現職。生活習慣(とくに飲酒)と免疫機能を介したがんおよび循環器疾患の社会格差が研究テーマ。社会医学系指導医、日本泌尿器科学会指導医、麻酔科標榜医。
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