在宅勤務の急速な普及 家庭での役割分担見直しを
ダイバーシティ進化論(村上由美子)
経済協力開発機構(OECD)の調査によると日本人の平均通勤時間は43分だ。これは全国平均だから、都市部ではさらに長いだろう。OECD加盟国の中では、韓国に続いて長い。
新型コロナウイルス感染対策でリモートワークが進み、満員電車に揺られて通勤する機会は減った。残業や会食も減少し、人々の時間の使い方は大幅に変わった。予期せず急速に普及したリモートワークだが、労働生産性が向上するのではとの期待は高い。
アフターコロナの労働生産性を測る指標はまだ明確に出ていないが、すでに気になる声があがっている。在宅勤務を始めた男女に子供がいる場合、仕事がはかどりにくいと感じるのは女性に多そうだ。私も今、この原稿を自宅で執筆しているが、休校中の3人の子供たちの声で気が散ってしまう。父母とも在宅であれば、子供に気を取られるのは男女とも変わらないはずだが、実際に家事や育児に費やす時間には大きな隔たりがある。
家事や育児などの無償労働に費やす時間は、男性が一日平均で136分なのに対し、女性は262分と2時間以上も多い。日本の場合、男性の無償労働時間は41分と特に短く、OECD加盟国の中でも最低レベルだ。
日本女性の就業率は近年急速に伸び、すでに米国を上回っている。日本では共働きが主流になったにもかかわらず、家事や育児の負担はほぼ母親のみにのしかかる構図に大きな変化は見られない。
在宅勤務が急速に標準化しつつある中、家庭における男女の役割分担を根本的に見直す必要があるのではないか。通勤時間などが減少し、効率よく働くことによって生産性を高めるチャンスを男女ともに享受できる環境づくりは、家庭内の役割分担の意識改革から始まるはずだ。
そうした改革は、両親の姿を一日中身近に目にすることになった子供たちに、ジェンダーロールにとらわれない価値観をもたらすという意味でも重要だろう。
在宅勤務の思いがけない普及で、働き方改革が進んだという幻想が広がっている。しかし労働生産性向上の本質は、いかに新たな付加価値を生み出せるかという点にある。働く環境が大きく変わる中、新たな価値を生み出し、どう生産性を高めていくのかを、アフターコロナの時代は問うている。
[日本経済新聞朝刊2020年6月8日付]
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