
動画投稿サイト「ニコニコ動画」を運営するドワンゴは2月中旬から全社員約1000人が原則、在宅勤務をしているという。3カ月の在宅勤務で得た経験はどんなものだろうか。前回の「宣言解除されても全社員が在宅勤務 ドワンゴ」に引き続き、夏野剛社長に聞いた。
オンライン化によって輝く人・沈む人
白河 今、多くの会社が緊急事態宣言解除後の働き方について迷っているところだと思うんです。その先の結論が「在宅勤務をしてもいいけれど、やっぱり出社が原則です」となってしまうと、もったいない。情報格差による分断が生まれてしまうのではないかと危惧しています。ほかに、在宅勤務期間に得られた気づきや課題はありますか?
夏野 ハイパフォーマーとローパフォーマーの差がより明確になることも分かりました。つまり、自律的にどんどん仕事を進められる人は在宅勤務でも問題なくアウトプットを出してくれる一方で、ローパフォーマーの成果はほとんど見えづらくなる。これは本人にとっても会社にとっても、よくないですよね。もしかしたら今後は「会社に来ない人ほどハイパフォーマー」という構図が日本社会に生まれるかもしれません。
白河 評価の仕組みが、「出社して顔を合わせて様子を見る」というコミュニケーションの前提の上に成り立っていたという背景もあると思います。在宅勤務になった途端に存在感が消えた人がいる、なんて話もよく聞きます。
夏野 会議に出席しても黙って座っているだけなんだけれど、なんとなく威圧感があって力を持っている人っていますよね。そういった不可解なパワーは、オンライン化によって撲滅されました(笑)。
白河 意見を発言しなければ、存在感がなくなってしまいますからね。
夏野 存在感がない人は、次の会議から呼ばなくていいことになりますし。アウトプットを出した人が正当に評価される時代になっていくのではないでしょうか。
白河 オンライン化によって輝く人・沈む人の差はこれから開いていくのではないかと想像しています。沈んでしまった人はどうしたらいいでしょうか。
夏野 早く仕事を変わるべきです。僕は、仕事が「できる・できない」の差は適性で決まるものだと思っていて。同じ会社の中で働いていても、1人で黙々とシステムを触るのが向く人、チームで集まってクリエーティブなアイデアを出すのが得意な人など、適性は多様ですよね。
つまり、ローパフォーマーは能力が低いのではなくて、たまたま今の仕事が合っていないだけ。日本にはジョブローテーションの文化がありますが、単に機械的に回すのではなくて、ピタリと適性に合う仕事がハマったときには、なるべく長くその仕事で力を発揮してもらうほうがいいです。無口なエンジニアが、いきなり企画部隊に入れられて「元気なプレゼンをしろ」と言われても、なかなか難しいじゃないですか。要は適材適所。人材のミスマッチを生まない仕組みづくりをすることが、根本的な課題の解決につながると僕は思います。
白河 (終身雇用と年功序列を前提に職務や勤務地を限定せずに働く)「メンバーシップ型」から(職務定義書で社員の職務を明示して、その達成度合いなどをみる)「ジョブ型」への転換も促進されていくということでしょうか。
夏野 そもそもメンバーシップ型というのは時代遅れなんです。社会全体の経済が拡張していく、すなわち他社との差別化をしなくても成長できる時代においては機能した企業文化です。高度経済成長が止まった1985年には終焉(しゅうえん)したはずなのに、まだ通用するかのような幻想を振りまいてきたのが平成の30年間だった。多くの企業が厳しい競争にさらされている今、雇用の責任を企業に押し付けるのは間違っていると思います。生活のセーフティーネットは本来は社会が用意すべきで、個人は好きな仕事を自由に選べるようにしたほうが絶対に幸せなはずなんです。