白河 あと、在宅勤務にまつわる課題としてよく聞くのは、コミュニケーションの余白が減ったという話です。例えば、オフィスのコーヒーメーカーの前で何気なく交わす雑談の中でアイデアが生まれるといった機会が、リモートではつくりづらい。その点はどう感じますか?

夏野 孤独感に関しては社内でも意見があったので、10分程度の朝礼代わりのミーティングを導入した部門もあります。一方で、「雑談によってアイデアが生まれる」ということには、僕はやや懐疑的で、そこまで斬新な発想が生まれるきっかけにはならないのでは?という考えです。

ただ、オンライン上で業務を進める働き方の課題として僕自身も感じているのは、頭の切り替えの問題です。移動が不要になることは効率的だと思う半面、1時間や30分単位でミーティングを詰め込んでしまうと、脳疲労がたまりますね。それも自宅の同じ場所でずっとやっているから、気分の切り替えが難しい。物理的な移動の間に、気持ちを切り替えていたり、議論を反すうしたりと、実は有用なリフレッシュな時間だったのだということにも気づきました。ですから、在宅勤務でも意識的に短いリフレッシュを挟み込んだほうがいいですね。

オフィスは快適なミーティングの場にしたい

白河 今回、日本人は家庭における仕事と家庭の両立を初めて経験しました。住宅環境の問題も指摘されていますね。やはり日本の家は狭いので。

夏野 ある程度は慣れで解消される部分もあるとは思いますが、最近は「押し入れDIY」といった在宅勤務に最適化するための住宅改造が流行しているとも聞きますし、それなりの投資が必要になりますよね。それを加味した在宅勤務手当も新たに検討中です。この3カ月の間には、会社で使っていた大型モニターを社員が持ち出してもOKとしました。

白河 これまでもリモートワークを推進する動きはありましたが、コロナによって働く場所が「自宅」に固定されたというのは緊急対応ならではでした。今後のオフィスの活用の仕方は変えていく予定ですか?

夏野 しばらくは社員全員が同じ場所に集まるワークスペースという使い方ではなく、時々顔を合わせるミーティングのために使う場という位置づけになると思います。席数を減らし、会議室をより快適で安全な空間として使える環境にしたいと考えています。また、KADOKAWAグループ全体でも、各社のオフィスをコワーキングスペースとして利用できるようにするといいですね。ドワンゴの本社は銀座にあって地の利がいいので、このオフィスはそのまま維持してより快適なミーティングスペースを用意して、チームのアイデア共有を刺激する。そして、1人で集中したい仕事はいつでも家でできる。より自由に働き方を選べるようにしていければとあれこれ構想しています。

白河 なるほど。普段は顔を合わせないグループ企業の社員が時々交流できるようなイメージですね。会議室も無味乾燥な詰め込み型の部屋ではなく、創意が生まれるような場にしたい、と。長期視点で具体的な働き方改革を準備していらっしゃることがよく分かりました。これからますます期待して注目していきます。

あとがき:政府の会議の有識者議員などでご一緒する夏野さんですが、今回は「オンラインで」と取材を申し込んだら、すぐにOKしてくれました。今まで社長の取材は、広報の方など、広い部屋で編集チームも含めると10人前後になることも多いですが、今回は非常にシンプル。名刺交換もないと取材時間もたっぷりとインタビューに使えます。今後は「対面」の価値、オンラインの価値を、新たに構築していく時代。まさにそのための「検証」と「実験」の期間が、この6、7月の働き方への対応なのかもしれません。コロナがなくなったとしても、「さあ、元に戻ろう」では、企業の未来はないと思っています。今どれだけ「変化していけるか?」を追求するドワンゴの姿勢は、他の企業にも参考になることも多いのではと思いました。

白河桃子
少子化ジャーナリスト・作家。相模女子大客員教授。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員。東京生まれ、慶応義塾大学卒。著書に「妊活バイブル」(共著)、「『産む』と『働く』の教科書」(共著)、「御社の働き方改革、ここが間違ってます!残業削減で伸びるすごい会社」(PHP新書)など。「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプラン講座」を大学等で行っている。最新刊は「ハラスメントの境界線」(中公新書ラクレ)。

(文:宮本恵理子)