白河 まさにそういう時代ですよね。米国政府がすぐに個人向けの給付を決めたのは、企業のレイオフが当たり前だからですよね。日本の場合は企業が雇用を持続するように補助金を出すという考え方になっている。

夏野 本来は個人に直接給付するべきだと思います。それがうまく進まないのは、20年前のマイナンバー導入をうまく進められなかったツケですよね。マイナンバーを危険視する人がいますが、そもそも支出には関わらないので悪用のされようがないですし、SNS(交流サイト)のアカウントのほうがよっぽど個人情報流出のリスクがあるでしょう。オーバーセキュリティーになったために、緊急時の個人給付にこんなに時間がかかる状況になってしまった。今の問題意識を、国全体でしっかり議論する必要があると思います。

白河 コロナによってあぶり出された問題点をいかに解消していくかがステップアップのカギである、と。オンライン化の課題は医療や教育の分野でも広く共有され、今回、KADOKAWAグループが展開するオンライン学校「N高等学校(N高)」の動きも注目されました。日本の公教育分野でのオンライン化はなかなか道のりが遠いですね。

夏野 N高はもともとオンライン授業をやっていましたが、3月の全国一斉休校が決まってから、教材を全部無料解放しました。そして、さらに始めたのが、「オンライン授業の進め方」についての講座の無料解放です。「オンライン授業を始めたいが、方法がわからない」という先生方からの声に応える形で「教え方の開放」も始めたという経緯です。

オンライン教育をもっと自由に

白河 それは助かる先生は多いでしょうね。私も東京都中央区の保護者グループと行政に公教育のオンライン化への働きかけをしました。オンラインホームルームなど PTA の取り組みが実装されたりしたのですが、先生方にやる気はあっても学校現場に十分な通信環境がないなど、ハードルの高さを感じました。

夏野 ハードにこだわり過ぎているんじゃないかなと思いますね。YouTubeやニコニコ生放送のネット配信だってスマートフォン一つでできる時代なんですから、先生のスマホでやろうと思えばできるはずなんです。問題は何をやらせるかであって、リアルの授業をそのまま再現しようとこだわらずに、今だからできる自由な授業をやったらいいんじゃないかと思いますけどね。うちの長女はインターナショナルスクールに通っているんですが、いい意味で力が抜けていますよ。体育の課題なんて、「自分がベストだと思う体操を動画で撮って送りなさい」というだけ。結構楽しそうにやっていますよ。

白河 デジタルネーティブの子どもたちのほうが柔軟に適応していくんでしょうね。

夏野 教育も変わるチャンスだと思うんですよ。これまで学習指導要領に添って教科書に準じた内容を詰め込み式でやってきた授業から、図らずも解放されているのが今の状況だとしたら、「今、子どもたちのためになる教育とはなんだろう?」とぜひ先生方が自分なりに考えていただき、実行していただきたい。

そして、そのチャレンジを誰も否定しないということが重要だと思います。昔は先生って、もっと自由でしたよね。ちょっと自由過ぎる先生がいても、社会が許容する雰囲気があったと思います。それが今はゆとり教育の反動もあって、非常に窮屈になっている。その体制を見直すいい時期だと思います。

医療もしかりで、このコロナを機に、長年の課題だったオンライン診療やオンライン処方が一気に進もうとしています。社会を構成する様々な分野が変わるチャンスだと、前向きに捉えていくべきです。ビジネスの分野もしかり。先延ばしにしてきた課題を解消していく行動を続けていきたいですね。

白河 経営者としては、これから起こり得る変化のどこに注目していますか。

夏野 個人と組織の関係性が大きく進化していくだろうし、そうあってほしいと思っています。ITが浸透したこの20年間で、最も大きなインパクトは「個人と社会の関係性」。インターネットが使えるようになる前は、組織の中にいないと情報が入ってこなかったので、組織の中でしか専門家になれなかったけれど、今は家の中にこもっていても誰でも情報を集められて専門家になれる。組織と個人の情報格差がゼロになった一方で、両者の関係性を規定する法律はまだ古いままだから、副業解禁もなかなか進まない。「会社が雇用主として個人を守り、管理する」という考え方が強過ぎるからです。コロナを契機に、そういった古い習慣も一気にアップデートされていけばいいですね。

次のページ
オフィスは快適なミーティングの場にしたい