首相の大平氏は自ら省エネルックを着用してメディアの前に立ち、国民にアピールしました。もっとも、それはあくまでデモンストレーションでした。大平氏自身はその後、省エネルックを着て公務にあたったわけではありません。

「省エネルック」姿の大平正芳首相(右)。当時は普及しなかったが、現在ではクールビズの源流として評価する声も(1979年、肩書は当時)=共同

半袖スーツ、国民はそっぽ

今の政治家はいざ知らず、70年代までの政治家には贈答品が山のように届けられました。その中でも代表的なギフトが「お仕立て券付きの洋服地」です。舶来の生地で、洋服屋を呼びさえすればスーツ一着が仕上がる代物。おおむね100万円ほどでしたでしょう。

首相としてスーツ姿で記者の質問に答える大平正芳氏(1980年5月)

当時の政治家の多くは、このお仕立券付き洋服地を実際に利用したと思われます。銀座の老舗テーラーで、売り上げのおよそ半分を占めた時代もあったくらいです。夏ともなれば、英国製の高級生地「トロピカル」も登場したはず。光沢があって、さらりとして風通しがよく、涼しい。細いウール糸を右に撚り、左に撚る。この方向違いの糸を交互に織り込むので、微かな隙間ができるのです。文字通り「熱帯向け」の生地で、大平氏もお召しになっていました。つまり、省エネルックの必要はなかったわけです。

省エネルックは話題を呼んだものの、まったく普及しませんでした。まるで普通のスーツの袖をぶった切っただけの見た目が、今風に言えば「ダサい」と批判されたのです。

とはいえ、後のクールビズの源流になっていることを考えると、省エネルックの発想には一定の評価を与えてもいいのではないかと思えます。しかも、いま改めてよく見てみると、大平氏のスタイルはなんだかすてきに見えませんか。なぜでしょう。これが「サファリスーツ」にそっくりだからです。

SUITS OF THE YEAR 2021
Watch Special 2021
SPIRE
次のページ
シュッとしたモデルが白麻を着れていれば…
SUITS OF THE YEAR 2021
Watch Special 2021
Instagram