何としてでも成功の1例目つくる

――なぜ産業や社会の課題解決にまで目を向けたのですか。

「スタンフォード大にいた時、エコシステムをつくらないと勝てないと実感しました。AIの研究分野でも、グーグルが最強です。資本がある方が研究でも勝つのです。物理や化学の基礎研究とは違って、AIの研究では膨大なデータを集めたり、計算機のインフラを構築したり、実験のできる環境も必要となるので、すごくお金がかかるためです」

「日本でもAIのエコシステムに挑戦する価値はあると思います。松尾研のビジョンは『本郷バレー構想』を実現すること。AIの研究者だけではなく、起業家や投資家が連携し、シリコンバレーや中国の深圳と並んで語られるくらいのエコシステムをつくることが目標です」

「とはいえ、本郷バレー構想の実現には課題がいっぱいあります。僕は『1、2たくさんの原理』と呼んでいますが、何としてでも成功の1例目をつくること。次に2例目をつくり、それを抽象化、一般化して、たくさんの成功例を生み出す仕組みを作ることが大事です。松尾研からも、ニュース配信のGunosy(グノシー)やパークシャなどの有望なベンチャーが出てきました。でも、もっと多くの学生や企業と一緒になって成功率を上げていきたい」

――どんな青春時代を過ごしましたか。

「自分が存在しているのはなぜか、死ぬとはどういうことかを考えて、中学や高校の頃は哲学書にはまっていました。小さい頃から具体物にはあまり興味がなく、抽象物のほうが好きでした。『ポケットコンピューター(ポケコン)』という小さいコンピューターを親からもらって、これは無限の可能性があるなあと思ってプログラミングをして遊んだりしていました」

高校から社会人までソフトボールを続ける。セーフティーバントの技を磨いた(前列右から3人目が松尾氏)

「スポーツは中学では野球、高校からソフトボールをやって、大学、社会人と続けました。まあ、我ながら変わったプレーヤーで、セーフティーバントばかりやっていました。やり方を色々追求した結果、独特のバントを生み出しました。打率は毎年約4割です。まず三塁手がバントのボールをとろうとダッシュしますが、これを遅らせるために、最後の瞬間まで打つのかどうか分からないフォームにします。結局は三塁手との戦いですから。それから、力加減を工夫してバットの芯に当たると、いいところにバックスピンで転がって絶対にヒットになるまで練習するのです。ツーストライクまで2回トライできるので、1回でも芯にあたるとヒットになる。ツーストライクに追い込まれると、(スリーバント失敗でアウトになるので)ヒッティングに切り替えます。それを積み上げると打率は4割になるというわけです。みんなからは『ずるい』と言われていましたけど」

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