「僕は起業家向きじゃない」 AI人材の育成こそ天職東京大学大学院 松尾豊教授(上)

若い人材の「いいメンター」になりたい

――尊敬している起業家は。

「たくさんいますが、東大出身者だと、江副浩正さん(リクルート創業者、13年没)はすごい人だったと思います。もともと広告を情報として載せる、というビジネスモデルを考え出して事業を成長させました。1980年代にはニューメディア事業を模索していて、インターネットが出るかなり前から新たな情報媒体を使った広告モデルを考えていたようです。90年代も江副さんが現役で活躍していれば、日本でも検索エンジンの開発が進んでいた時代だったので、絶対に広告ビジネスを考え出していたはずです。もしかして、グーグルのような巨大企業が日本から誕生したという、別の未来もあったかもしれないとさえ思っています」

スポーツは学生時代にやっていたソフトボールなどが好きだという。ただ、最近は多忙で「まとまった時間がとりにくく、人数を集める球技はなかなかできませんね。やるにしても、テニスをちょっとするぐらいでしょうか」と少し残念そうに語る

「2002年に研究者として、ウェブ上のデータ分析を活用した広告モデルを提案したことがあります。現在でいうターゲット広告の基礎となるような技術なのですが、当時の偉い先生から『広告なんてくだらない』と却下されました。その時、いいメンターがいれば違ったはずだと感じました。世界に先駆けた圧倒的な技術だという自信があったからです。当時、有能なベンチャーキャピタリストがいて、この技術で起業してみればという話になっていれば、もっといろいろ広がったのに、と今でも思います」

「江副さんのような人がいれば、僕を支援してくれたかもしれないんです。だから逆に今、若い人にやってあげたいのです。僕がシリコンバレーのベンチャーキャピタリストのような役割を果たしたいと考えています。起業家の成功、失敗の事例をたくさん集めて、きちんと把握し、抽象化して次の挑戦者に伝えてゆく。そして起業の成功率を上げてもらうのです」

「そうは言っても、起業家を育てるのは大変で、起業までに相当の時間を費やします。『こいつすごいな』と思うと、あれこれ相談に乗りますよ。1~2週間に1回の頻度で、1~2年間ずっと話し続けるという場合もあります。結構手間がかかりますが、僕はこういうことが好きなのです」

――新型コロナウイルスが起業家の育成に影響を与えていませんか。

「東大構内の入場は制限されていますが、もともと松尾研はオンラインで完結できる組織ですから、あまり影響はありません。オンライン飲み会とかはあまりやりませんが、きょう(5月中旬)は起業を考えている人を集めて、食事しながらいろいろ話そうと思っています。起業前は一番不安な時期だし、よく分からないことも多いと思うので対話が大事です。直接コミュニケーションをとりづらいのが、今一番の課題です」

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松尾豊
1975年香川県出身。97年に東京大学工学部電子情報工学科卒、2002年同大学院博士課程を修了。産業技術総合研究所の研究員を経て05年から米スタンフォード大学客員研究員。07年東大大学院准教授、19年から東大大学院工学系研究科 人工物工学研究センター教授(現職)。17年から日本ディープラーニング協会理事長。19年からソフトバンクグループ社外取締役。

(代慶達也)

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