新型コロナウイルス 「夏に弱い」は本当か?

日経Gooday

2009年の新型インフルエンザは夏に流行が始まった

では、これから実際に、夏に向けて新型コロナウイルスの勢いが弱まるのかどうか、その参考事例として、2009年に発生した新型インフルエンザの流行状況を振り返ってみたいと思います。あのときには、それまでブタの間で流行していたA型インフルエンザウイルス「A(H1N1)pdm09」が人に感染し、人-人感染が広がったことにより、世界各国で多くの感染者と死者が出ました。

A型インフルエンザウイルスは、コロナウイルスと同様に、高温多湿に弱く、低温で湿度が低い環境を好むことが以前から知られています。古典的な実験ですが、現在でもそのデータがよく引用されるG. J. Harper氏の実験結果[注5]を表2にまとめました。

この実験では、回転し続けるステンレスドラムの中にエアロゾル状態で封入したA型インフルエンザウイルスが、各環境下でどの程度感染力を維持しているかを検討しました。その結果、高温多湿だとA型インフルエンザウイルスは速やかに感染力を失いましたが、逆に低温で湿度が低い、真冬のような環境では、長い間感染力を維持していました。この特性は、北半球でインフルエンザが冬に流行することとよく一致します。

ところが、日本における新型インフルエンザの主な流行は、夏に始まりました。国立感染症研究所感染症情報センターのまとめ[注6]によると、わが国では、2009年5月9日に成田空港で最初の患者が検知され、その後、関西地方のいくつかの高校などで集団感染が発生しました。地域での学校閉鎖や濃厚接触者の自宅待機などの対策が行われた結果、一般社会への広がりはかなり抑えられ、ウイルスはいったん消え去ったとみなされました。

[注5]Harper GJ, et al. J Hyg Camb. 1961;59:479-486.

[注6]国立感染症研究所感染症情報センター「パンデミック(H1N1)2009発生から1年を経て」

しかし、6月中旬頃から再び日本各地で新型インフルエンザの患者が増え始め、8月ごろになると、例年であれば12月ごろにみられる、流行シーズンに入ったような発生状況となりました。そのまま患者は増加し続け、12月に入り、ようやくピークを越えて減少傾向となったのです。

流行の開始が早かった沖縄県では、夏休みに入る頃から感染者が急増しました。その他の県では、夏休みの間は緩やかに増加し、11月に向けて急増しましたが、年明け以降、すなわち、例年、季節性インフルエンザの流行が拡大するころには、感染者は大きく減少しています。

新型インフルエンザに対するワクチンの接種が国内で始まったのは10月下旬でした。年明け以降の感染者の減少には、それまでに感染した人と、予防接種を受けた人による免疫の獲得が関係していると考えられます。

こうして新型インフルエンザは夏から秋にかけてパンデミックを引き起こし、翌年以降、季節性インフルエンザとして冬に流行するようになったのです(図1)。

図1 インフルエンザの流行状況(2002年~2012年)

A型とB型を合わせたインフルエンザ患者数の推移。新型インフルエンザがパンデミックを起こした2009年だけが、流行のピークが秋にずれていた。(出典:感染症発生動向調査週報〔IDWR〕)

日本において、新型インフルエンザが、A型インフルエンザウイルスの特性を反映する感染状況を示す(冬に流行する)ようになったのは、一定以上の人々が免疫を獲得してからでした。ウイルス自体は夏に弱くても、2009年の夏には、免疫のない人に容易に感染し、患者を急増させていました。新型コロナウイルスも同様に、気温や湿度の上昇に弱い性質を持ってはいるものの、まだ免疫を持たない人々を中心として夏に感染が拡大し、流行の第二波、第三波を生じさせる可能性があります。安全で有効なワクチンが利用できるようになるまでは、引き続き手洗い、せきエチケット、三密(密集・密閉・密接)回避といった感染予防対策をしっかりと実行していく必要があるでしょう。

[日経Gooday2020年5月25日付記事を再構成]

大西淳子
医学ジャーナリスト。筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。

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