「若草物語」プロデューサー 映画で問う女性の生き方
恋する映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
新型コロナウイルスの影響で自粛が余儀なくされた映画館での映画観賞。ようやく全国で非常事態宣言が解除され、待機となっていた新作の封切りも再開した。ハリウッド作品のなかでもいち早く公開を決めたのが『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(6月12日から全国順次ロードショー)。今年のアカデミー賞レースでも注目を集めていた作品だ。本作の製作を指揮したプロデューサーのエイミー・パスカルに、本作の見どころや日本の働く女性たちに伝えたい思いを語ってもらった。併せて映画館での感染対策について、TOHOシネマズ担当者の話を紹介する。
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現代に通じる問題は誰もが共感できる
原作である「若草物語」の舞台は、南北戦争時代の米マサチューセッツ州ボストン。メグ、ジョー、ベス、エイミーのマーチ家四姉妹が、出征している父親を待つ間、堅実な母親のもとでつつましく、そしてたくましく生きていく様子が描かれている。これまでに映画やテレビ、舞台など、さまざまな形で脚色されている不朽の名作だ。150年以上も世界中で愛され続けているが、いまの時代に改めて映画化した裏側には、ある思いがあったとエイミー・パスカルはいう。
「監督であるグレタ・ガーウィグの才能にほれ込んでいたからというのもありますが、何よりも彼女の解釈はモダンで、いまも多くの人たちが共感できるようなものになると確信したからです。日本ではアニメにもなりましたが、このようなテーマの作品は数少ないので、それをグレタの視点で新しく描くのであれば、ふたたび映画にする価値はあると思いました」
今回は、作家になるという夢に向かって一途に走り続ける次女ジョーの視点で描かれていることもあり、彼女が口にする仕事に対する考え方や結婚観は、いまの働く女性なら誰もが共感してしまうほど、時を超えて私たちの心に響く。
「グレタがこの小説のなかで特に注目していたのは、女性の経済的な自由について描かれていること。女性が金銭的に余裕のない状況に置かれることはかつてもありましたし、いまでも続いていることですからね。だからこそ、そういったことを映画で描くのは、すごく興味深いと感じたのです。そのほかにも、この作品の側面にあるのは、女性が愛と野心を同時に持つことの難しさとそれに対してどう向き合っていくのかということ。実際、どちらかしか手に入らないことが多いというのも、現代に通じる課題ですよね」
結婚によって生まれる葛藤やキャリアを追求するからこその苦悩など、困難な時代のなかでそれぞれに異なる思いを抱えるマーチ家の姉妹たち。それでも自分らしく生きることを貫こうとする姿は、どんなときでも前に進むことの大切さを教え、たくさんの勇気を与えながら私たちの背中を力強く押してくれる。
女性たちの才能が結集して生まれた傑作
原作者のルイーザ・メイ・オルコットは、19世紀を代表する女性作家であり、女性クリエーターの先駆けともいえるが、本作には監督、脚本、製作、出演者など、才能のある女性たちが数多く集結。作品からも、女性たちの持つ力や可能性がひしひしと伝わってくる。なかでも、エイミーにとっては財力を持つマーチ伯母を演じたハリウッドの大女優メリル・ストリープとの仕事は格別であり、エキサイティングな出来事だったと話す。
「メリルとはこれまで何度も仕事をしているけれど、この作品でも彼女は非常に特別な部分を担ってくれました。実は、今回最初にキャスティングしたのはメリルでしたが、地に足の付いた生き方をしていて、映画のテーマにおのでグサッと切り込むようなこの役を演じたい、と言ったのは本人。それくらいみんなでたくさんの愛情を注いで作り上げたので、私のキャリアにおいても、もっとも喜びを感じる作品のひとつですね」
メリル・ストリープのみならず、シアーシャ・ローナンやティモシー・シャラメ、さらには本作でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた若手女優フローレンス・ピューといった俳優陣の熱演も見逃せないところ。この作品に込められたキャストやスタッフの情熱は、スクリーンを通してでも観客に届く。
仕事も家庭もできる限りのことをするしかない
並々ならぬ思いを抱えながら、プロデューサーとして長年にわたって第一線を走り続けているエイミー。家庭と仕事を両立することは決して容易ではないが、普段から意識していることがあると教えてくれた。
「多くの働く女性たちが感じていることだと思うけれど、家にいれば仕事のこと、仕事をしていれば家のことを考え、その場にいないことへの罪悪感を抱いてしまうもの。でも、それとうまく付き合っていくことを覚えるしかないし、正直言って自分ができる限りのことをやるしかないんですよね。私の場合は素晴らしい夫と息子、あとは犬たちに恵まれているのもありますが、大好きな仕事のなかで自分が愛せるものを見つけられることは大事だと思っています」
そう話すエイミーは、日本の女性たちにも本作を通じて伝えたいメッセージがあると訴える。
「まずは、少女時代に自分がやりたかったことや忘れたくない気持ちを大人になっても持つこと。そして自分のなかにある少女の部分とつねにつながり、対話を続けていく必要性を感じてもらえたらうれしいです。それから、ここで描かれている思いやりの心や愛情というのは、人間のなかでも一番すてきなことなので、いまを生きる私たちも、そういう部分をもっと持つべきだと思っています。今回は、原作を愛するすべての方が求めているものやロマンスを踏まえつつ、ジョーにとっては意味のあるエンディングになっているので、そのあたりもぜひ注目してください」
自分自身を見つめ直す機会を経て、新たな日常を始める時期にいるいまだからこそ必見の一本。「本当に自分らしい生き方とは?」という問いだけでなく、仕事や結婚との向き合い方、家族との絆など、人生におけるさまざまな思いが込み上げてくるのを感じることができるはずだ。
監督・脚本:グレタ・ガーウィグ
原作:ルイーザ・メイ・オルコット
出演:シアーシャ・ローナン、ティモシー・シャラメ、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレン、エマ・ワトソン、ローラ・ダーン、メリル・ストリープほか
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
6月12日(金)、全国順次ロードショー
【ストーリー】
19世紀、米国。一途で情熱的な次女のジョーは、控えめで美しい姉メグ、病弱な妹ベス、オシャレにしか興味がない末っ子のエイミーとともに暮らしていた。ある日、個性豊かなマーチ家の四姉妹が出会ったのは、資産家のローレンス家の一人息子であるローリー。その飾らない性格に心引かれていくジョーだったが、結婚をして家に入ることで小説家になる夢が消えてしまうと信じていたため、ローリーに別れを告げてニューヨークへと一人で渡ることに……。
劇場再開にあたり、安全面での対策について
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』の上映劇場であるTOHOシネマズ劇場では、全従業員のマスク着用、手洗い・手指消毒・うがいの徹底、一部従業員のゴム手袋の着用を行っています。また、自動券売機や扉、手すり、トイレなど、手が触れる箇所の消毒と清掃を強化し、消毒液やペーパータオルも各所に設置しています。混雑緩和のため、キャッシュレス決済を推奨しており、入場時はチケットを受け取らずに、目視のみで確認しています。そのほかにも、釣り銭は手渡しではなくキャッシュトレーに置くなど、様々な安全対策に取り組んでいます。
映画館に行くうえで、観客として気をつけたほうがいいことは?
来館前に、検温などの体調管理をお願いしていますが、発熱やせきなどの症状がある場合は、体調を最優先していただければと思います。また、マスクの着用や手洗い、消毒液のご使用、せきエチケットの協力、整列時と入退館時のソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保など、感染予防および拡散防止に可能な限りの配慮をお願いしています。そのほか、過去2週間以内に感染が拡大している国や地域に訪問歴がある場合は、来場を控えていただくようお願いしています。来場の際に体調が悪くなられた場合は、お近くの従業員が対応します。
映画館に行くことを不安に思う観客の方に向けてメッセージ
換気を気にする方も多いかと思いますが、館内の空気が外気と入れ替わる空調システムを使用し、法律で定められた基準をもとに換気をしています。これは新型コロナウイルス以前から、インフルエンザなどの感染症予防も含めて行ってきたことです。定期的な換気をすることで密閉を避け、密集した空間にならないように前後左右に1席ずつ間隔を設けています。さらにマスク着用のうえで前方のスクリーンに向く形となっているので、対面で飛沫を浴びることもなく、密接もありません。三密にならないように管理しています。これまで以上に安心して映画をお楽しみいただける環境づくりに努めて参ります。
(回答者 TOHOシネマズ営業本部マーケティング事業部部長 近藤普一郎さん)
(取材・文 志村昌美)
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