例えば、2019年に放送された深夜ドラマ『デザイナー渋井直人の休日』。原作は若手コラムニスト渋谷直角のコミックで、光石研は初主演で主人公の渋井直人を演じている。

「人を選ぶ服」もさらりと着こなす

52才独身、フリーランスのグラフィックデザイナーの渋井直人の格好は、出かける時はいつもネイビーのダッフルコートに大判のマフラーを巻いて、カバンはエルエルビーンのトートバッグ。グレーやえんじ色のニットをカットソーのように着てパンツはチノパンツ。靴は映画監督のウェス・アンダーソンを意識してクラークスのワラビー。おそらくアイテムはどれもマーガレット・ハウエルじゃないかと思うが、お洒落なんだけどもちょっと自信がなくていつもオロオロしちゃうおちゃめな中年オジサン、渋井直人は光石研じゃないかと思ってしまうほど、実に似合っているのだ。

光石研のカジュアルスタイルの真骨頂ともいえるのが、デザイナーの鈴木大器が手掛ける人気ブランドのエンジニアドガーメンツ(以下EG)を着た時である。

アメカジをツイストした一見ベーシックなデザインながらも誰にでも似合って着こなせるブランドではないEGの服を、いつも私服でさらりと着こなしている。ちなみに、同じ役者仲間の滝藤賢一も私服はEG好きで有名だが、アクの強い着こなしを好む滝藤賢一よりも、コンサバな着こなしをする光石研のほうが筆者の好みである。

人気ブランド、エンジニアドガーメンツをさらりと自分のものにする(NEPENTHES OFFICIAL WEBSITE "REMIX")

EGを扱っているネペンテスの公式HPにもモデルとして起用されていて、今シーズンの新作をさらりと肩ひじ張らずに着こなしているフォトセッション『気後れ』は、まさに役者光石ワールド全開で、服好きなお洒落オジサンは必見である。

ネペンテスの公式HPでのフォトセッション「気後れ」はおしゃれな光石ワールド全開だ(NEPENTHES OFFICIAL WEBSITE "REMIX")

役者は演じることが職業で、私服で注目されるべきではない。それこそ私服のセンスなんて脇役でいい。ドラマや雑誌で見る俳優が着ている服、あれはスタイリストが用意したものであってその人のセンスではないのだ。でもね、何かの拍子でチラリと見かけた私服が意外にもお洒落で、実は服好きだったりすると、それでファンになっちゃうこともあるんですよ。筆者の場合は光石研がそうなのだ。あと言い忘れてたけど、実は同い年(苦笑)。

いで あつし
1961年静岡生まれ。コピーライターとしてパルコ、西武などの広告を手掛ける。雑誌「ポパイ」にエディターとして参加。大のアメカジ通として知られライター、コラムニストとしてメンズファッション誌、TV誌、新聞などで執筆。「ビギン」、「MEN’S EX」、JR東海道新幹線グリーン車内誌「ひととき」で連載コラムを持つ。

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