「眠り」とは何かを考えて商品開発につなげる

大東氏が大学卒業後に勤めたのはダイエーで、1990年に家業である大東寝具工業へと戻ってきた。2000年から代表を務めているが、家業へ戻ってからの日々は、決して順調なものではなかったという。90年当時の社長は、現在会長である大東氏の母だったが、「経営状況が、こんなひどくなっているとは思わなかった」と大東氏は当時を振り返る。「債務超過になっていたけれど、債務超過の意味が分かる人すらいなかった。損益計算書も、財務諸表の見方も分からない。最初の5、6年は本当にひどい状態で、税理士からアドバイスを受けながら、なんとか売り上げをつくろうとした。もう逃げたかった。もし戻ってくる前に状況が分かっていたら、畳んでもらっていたかもしれない」(大東氏)。

まず意識したのは、それまでの状況を脱すること。商店街の一角で売られるような「布団屋」の布団ではなく、店舗の外観から変えたいと考えた。92年には敷地内の工場の面積を小さくし、インテリアコーディネートショップを意識して店舗を建て替え、その後は「雑貨も売る布団屋」としてリニューアル。数百円~数千円台の雑貨を1階で販売し、2階で布団を販売した。「布団は耐久消費財なので、数年に1回ぐらいしか買い替えないが、雑貨が話題になって訪れる人が増えた。多いときには京都府内で4店舗を構えた」(大東氏)。

その頃、並行して始めたのがEC事業で、2001年に楽天市場に出店をした。布団の業界としては非常に早い時期だったという。大東氏自身が00年に社長を引き継いだこともあり、雑貨をやめて布団に注力した。当時はキーボードすら操作できなかったが、ECサイトの立ち上げはすべて1人で行った。

「面白いほど売れた。始めてから5年後の06年には売り上げの65%が楽天経由になった」と大東氏は言う。その頃は自社の商品だけではなく、他社から安く仕入れた商品のほうを中心に扱っていた。しかし「バブル」は長くは続かなかった。人為的なミスによりECサイトのデータが復旧不可能となり、当時ほぼ1位だった検索ランキングが一気に下降。比例して売り上げもどんどん下がり、同年に手形の不履行も受けるなど最悪の年だったという。一方で、良品計画やイケアなどでも布団や寝具の扱いが増えてきていた。

そこでもう一度、自社の商品を中心に販売していくことに決めた。「当時から試験的に商品を開発してはECサイトに載せ、顧客の反応を見ていた。売れなかったら何が悪かったのか考えたり、1つ2つ売れて反応が来たら、その声に合わせてバージョンアップしたり。インターネットはそういうことができる面白い道具。微々たる売り上げだったが、現在の主力商品の種まき的なことはすでに行っていた」と大東氏は振り返る。そこで顧客の反応などをベースにして商品を開発することを目標に据えた。このため「眠り」とは何かを考えるようになり、11年からは全社員が睡眠健康指導士の資格も取るようにした。すると新しい商品が次々に生まれ始める。注目を集めるにつれて、徐々に大東氏が実感したのはデザインの力だったという。

2014年に改装する前の大東寝具工業の店舗。雑貨も取り扱っており、乱雑な印象だった
改装後の店舗は「ねむりとくつろぎのショールーム 眠りの蔵」としてリニューアルした

イーロン・マスクにロケット用の布団として使ってほしい

08年ごろから、展示会に出展し始めた。ある展示会で出会った銀座三越のバイヤーから「もう少し頑張れば、よい商品になるのでは」とアドバイスを受け、「銀座三越のような店舗と取引ができるかもしれないと気づいた。それまではBtoBへほとんど注力していなかったが、やらなければ損だと感じた」と意識を向け始め、デザイナーと協業するようになる。09年のインテリアライフスタイル展で初めて、大東氏は外部のデザイナーに展示会のブース設計を依頼した。「内心、ビクビクしながら取り掛かった。グラフィック、空間、さらに展示会のブース費用と、何でこんなにと思うほどお金がかかった。でもこのおかげで、いろいろなことにつながった」と大東氏は語る。メディアに取り上げられる機会も増えたという。11年ごろからは、インテリアライフスタイル展やギフトショーなどの展示会にもオリジナルの什器(じゅうき)で参加。結果、銀座三越でも取り扱われるようになった。

展示会では外部のデザイナーに依頼してブースを設計。今までのイメージが大きく変わり、新たな商談にも結び付いた

その後は、国内だけでなく国外へと販路を広げている。自費でロンドンへ渡り、人づてでコネクションをつくった。現地で若手のデザイナーとのワークショップも開催した。そして、あることに気づいたという。「やはり、デザインと経営は同じ発想じゃないといけない。ブランディング、マーケティングも同じ。ただ単に格好いいホームページを作るのがデザインではない。いかにお客さまに選んでもらえるかのストーリーを作るのもデザイン。もはや、どう収益を上げていくか自体がデザインなのだと考えている」と大東氏は話す。

現在は「メゾン・エ・オブジェ」「ニューヨークナウ」など欧米の展示会へも精力的に出展。徐々にディストリビューターも見つかり、今では11カ国で製品を販売している。海外メディアでの露出も増え、米紙「ニューヨーク・ポスト」や米ラグジュアリーライフスタイル誌「デパーチャー」にも掲載された。海外の売り上げはまだ4%程度だが手応えは感じているという。

発想の転換と新規事業への投資により売り上げを拡大してきた大東寝具だが、大東氏には心に決めていることがあるという。「EC事業を始めたときも感じたことだが、中小企業の場合、新規事業は経営者自らが取り組まないとだめ。そうじゃないと必要なことが何も覚えられないし、部下に業務を引き継いでマネジメントすることができない。現在、新しく力を入れているのは海外事業だが、売り上げに占める割合がが5%を超えるまでは僕自身がやろうと思っている」と話す。海外事業の他、現在はライフサイエンス系のグループとも研究・開発を進めているという。「イーロン・マスク氏が打ち上げるロケットの布団として使ってくれないかな」と語るなど、大東氏の野心は尽きないようだ。

(ライター 角尾舞)

[日経クロストレンド 2020年5月28日の記事を再構成]

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