あのタレキンは、いいとうすけだ 「符丁」の味わい立川談笑

弟子・談洲(だんす)さん(左)の二ツ目昇進披露公演にのぞんだ談笑師匠(2020年2月)
弟子・談洲(だんす)さん(左)の二ツ目昇進披露公演にのぞんだ談笑師匠(2020年2月)

いやあ、右を見ても左を向いてもどうにも深刻な話ばっかりで、気がふさぐようですな。そこで息抜きのために、今回は落語をお届けします。私の創作落語「符丁(ふちょう)」です。特別に面白いとか刺激的というわけでもありません。わはは。たとえるなら、ぬるま湯みたいな。わずかの間、嫌なことは考えずにぼーっとしませんか。

時代は明治あたりをぼんやりと想定しています。では、どうぞ。

三河屋の親方は地球外生命体?

ええ、落語でございます。出てまいりますのは、おなじみの大工の八五郎。きょうも仕事の帰りみちに、横町のご隠居さんのところに立ち寄りまして……

「ご隠居さん、いますか?」

「おや。誰かと思ったら八っつぁんかい」

「今、いいですか?」

「ああ。上がりな、上がりな。仕事帰りかい。どうした?」

「わっはっはあ。驚いちゃった! いえね。あの、隣町に出てる屋台で、『三河屋』っての、知ってます?」

「ああ、あの、屋台の寿司(すし)屋な。あたしゃ行ったことはないけど、結構な評判だ」

「そう、あの店! あっしゃ気づいちゃった!」

「んん? 何が?」

「さっき。仕事終わりにちょいと立ち寄ろうと思ったんですよ。そしたら、先の客が帰ろうってんでしょうね。『ごちそうさん。いくらだい?』って言ったら! 屋台の向こうから大将が、こっちの小僧に向かってピロピロピロ~って大きな声で何か言ったン。そしたらそのピロピロを聞いた小僧が客の耳元で、『えー、30銭で願います』と、こうだ! ええ? 親方と小僧との間じゃあピロピロ言ってるだけで、『30』でも『銭』でもねえんだよ? それが、『ピロピロ』の、『30銭です』たあ、どう考えてもおかしいだろうと。あの三河屋ってぇ寿司屋はね、外国の人だね。ことによるってえと、地球外生命体かもしれねえ」

「バカなことを言うんじゃない。あっはっは。なるほど、そうか。『ピロピロ』が『30銭』ってのが不思議だという話か。違ってたらごめんよ。その『ピロピロ』ってのは、『チョンブリ』とか『ソクバン』とか。そんな響きだったんじゃあ、ないかい?」

「あー!!! そう!そう!そう! それだ『チョンチョンブリブリ、バンバンバン』!」

「ぜんぜん違うね」

「あっはっはー。それだぁ。その謎の言葉の意味が分かるってぇところを見ると、ご隠居さんもやっぱり地球外生命体!?」

「んなわけないだろ。ああ、おまえさん、そりゃあね、あたしの思うところじゃあ、その言葉はお寿司屋さんの方の、『符丁』だよ」

「なんです?」

「お寿司屋さんの、符丁」

「『ふちょう』?」

「そう。仲間内だけにしか通じない、特別な言葉だ。目の前にお客様がいるのに、飲食代とはいえ『現金いくらいくら』とはあからさまに言いづらいもんだよ。だからそのために、わざと、分かりにくい言葉に置き換える。もっとも、言葉遊びみたいなところもあるだろうけどな。まあ、そんなこんなで符丁ってのが生まれたんだ」

「あっそう! じゃあ、あの三河屋の親方は地球外生命体では、」

「ないよ! 当たり前だ」

「じゃあ何じん?」

「見たところニッポン人だろうな」

「あー! そう。へー! なんだか、悔しいね」

「どうして?」

「だってそんな特別の、身内にしか分からない言葉をさ。寿司屋だけが使ってるなんて、面白くねえや」

「いやいや、寿司屋だけなんてことはない。おまえさんがた大工さんでもいくらもあるはずだし、あちこちいろんなご商売で同じように符丁なんてのは、あるもんだよ」

「たとえばどんなのがあります?」

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