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あのタレキンは、いいとうすけだ 「符丁」の味わい

立川談笑

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NIKKEI STYLE

いやあ、右を見ても左を向いてもどうにも深刻な話ばっかりで、気がふさぐようですな。そこで息抜きのために、今回は落語をお届けします。私の創作落語「符丁(ふちょう)」です。特別に面白いとか刺激的というわけでもありません。わはは。たとえるなら、ぬるま湯みたいな。わずかの間、嫌なことは考えずにぼーっとしませんか。

時代は明治あたりをぼんやりと想定しています。では、どうぞ。

三河屋の親方は地球外生命体?

ええ、落語でございます。出てまいりますのは、おなじみの大工の八五郎。きょうも仕事の帰りみちに、横町のご隠居さんのところに立ち寄りまして……

「ご隠居さん、いますか?」

「おや。誰かと思ったら八っつぁんかい」

「今、いいですか?」

「ああ。上がりな、上がりな。仕事帰りかい。どうした?」

「わっはっはあ。驚いちゃった! いえね。あの、隣町に出てる屋台で、『三河屋』っての、知ってます?」

「ああ、あの、屋台の寿司(すし)屋な。あたしゃ行ったことはないけど、結構な評判だ」

「そう、あの店! あっしゃ気づいちゃった!」

「んん? 何が?」

「さっき。仕事終わりにちょいと立ち寄ろうと思ったんですよ。そしたら、先の客が帰ろうってんでしょうね。『ごちそうさん。いくらだい?』って言ったら! 屋台の向こうから大将が、こっちの小僧に向かってピロピロピロ~って大きな声で何か言ったン。そしたらそのピロピロを聞いた小僧が客の耳元で、『えー、30銭で願います』と、こうだ! ええ? 親方と小僧との間じゃあピロピロ言ってるだけで、『30』でも『銭』でもねえんだよ? それが、『ピロピロ』の、『30銭です』たあ、どう考えてもおかしいだろうと。あの三河屋ってぇ寿司屋はね、外国の人だね。ことによるってえと、地球外生命体かもしれねえ」

「バカなことを言うんじゃない。あっはっは。なるほど、そうか。『ピロピロ』が『30銭』ってのが不思議だという話か。違ってたらごめんよ。その『ピロピロ』ってのは、『チョンブリ』とか『ソクバン』とか。そんな響きだったんじゃあ、ないかい?」

「あー!!! そう!そう!そう! それだ『チョンチョンブリブリ、バンバンバン』!」

「ぜんぜん違うね」

「あっはっはー。それだぁ。その謎の言葉の意味が分かるってぇところを見ると、ご隠居さんもやっぱり地球外生命体!?」

「んなわけないだろ。ああ、おまえさん、そりゃあね、あたしの思うところじゃあ、その言葉はお寿司屋さんの方の、『符丁』だよ」

「なんです?」

「お寿司屋さんの、符丁」

「『ふちょう』?」

「そう。仲間内だけにしか通じない、特別な言葉だ。目の前にお客様がいるのに、飲食代とはいえ『現金いくらいくら』とはあからさまに言いづらいもんだよ。だからそのために、わざと、分かりにくい言葉に置き換える。もっとも、言葉遊びみたいなところもあるだろうけどな。まあ、そんなこんなで符丁ってのが生まれたんだ」

「あっそう! じゃあ、あの三河屋の親方は地球外生命体では、」

「ないよ! 当たり前だ」

「じゃあ何じん?」

「見たところニッポン人だろうな」

「あー! そう。へー! なんだか、悔しいね」

「どうして?」

「だってそんな特別の、身内にしか分からない言葉をさ。寿司屋だけが使ってるなんて、面白くねえや」

「いやいや、寿司屋だけなんてことはない。おまえさんがた大工さんでもいくらもあるはずだし、あちこちいろんなご商売で同じように符丁なんてのは、あるもんだよ」

「たとえばどんなのがあります?」

「そうだねえ。……そう、変わったところでは落語の世界にも符丁なんてのはずいぶんとあるもんだ」

「落語? へー、どんなもんです?」

「数字なら、『1、2、3、4、5』というのが、『へー、びき、やま、ささき、かたご』、って具合だ」

「なんです?」

「『へー、びき、やま、ささき、かたご』」

「ぷふふっ。そんなもん、普通に、いち、にい、さん、って言やいいじゃねえですか」

「いやいや。そこは客商売だ。お客様の前で金の話はしづらいだろう。そこはそれ。お客様に分からないように仲間内だけで通じる言葉を使うんだな。『きょうのタロは……』タロってのはお金のことだ」

「それも、符丁?」

「そう、符丁。『きょうのおタロは、どんな具合だい?』とな。で、聞かれた方は『ヤマだよ』。つまり手取りで3円の仕事だと、そんな内緒話でも堂々と人前でできると、そういうわけだ」

「はー。その場で聴いていても客にはサッパリ分からねえと、こういう話ですか。便利なもんだね。それが、『符丁』」

「そう」

「それにしてもご隠居さん、落語家の符丁に詳しいですね」

「ああ。以前、この長屋に落語家で、立川談笑とかなんとか言った。そんなのが住んでいてね。いろいろと教わったもんだ」

「へー」

「落語の符丁はほかにもあってね。『食べる』じゃなくて『のせる』。『ちょいと何か軽くのせてくかい?』なんてね。だから『食べ物』は『のせもの』。大食いは『おおのせ』だ。そう、さっき言ってた寿司。寿司のことを『やすけ』と言うな」

「はー。やすけ?」

「客のことは『キン』。男は『ロセン』で女は『タレ』。顔のことは『とうすけ』というんだ。だから、『あの女性客は美人だね』というのを落語家の符丁で言うと、『あのタレキンは、いいとうすけだ』と、こう、なる」

「うっはっはあ! さっぱり分からねえ」

「分からないから、符丁さ」

「なるほど面白いもんだね。へー、ありやたんした。 また来ます!」

八五郎がご隠居さんの家を出て、自分の長屋へと帰ってまいります。

ウチも「火の元の不始末」

「あっはっはあ。符丁だってさ。おもしろいことを聞いちゃったな。あーあ。おっかあ、いま帰った」

「おかえりなさい」

「今ご隠居のところに寄ってな。世の中にゃ符丁ってのがあるんだってよ。仲間内だけの秘密の言葉ってのがあってさ。……って、おい、聞いてんのかよ」

「あー、ちょっと黙ってておくれよ。ほうら、また分からなくなっちゃった」

「なんだいおめえ、ソロバンと帳面とにらめっこしてやがるな。なんだそりゃ」

「家計簿ってんだよ。お隣のおみっちゃんに手ほどきを受けてね。こないだっから長屋のかみさん連中そろって始めたんだ。やりくりしてるんだよ。だからおまえさんも仕事に精出してもらわなきゃ困るよ」

「うーん。すまねえ」

そこへちょうどお隣からおみっちゃんが顔を出して、

「どうだった? 家計簿できたかい?」

「あら、おみっちゃん。うーん、さっきっからソロバンはじいてるんだけどさ。何度やってもおんなじ。やっぱり今月も、ウチは火の元の不始末みたい」

「あらま、ウチもそう。火の元の不始末。あはは、困ったもんさ。そんじゃね」

「うん、またね」

「おうおう」

「なぁに?」

「今、となりのカミさんがなんか言ってたな。火の元の不始末とか何とか。不用心じゃねえのか?」

「ああ、『火の元の不始末』かい? そりゃね、この長屋のカミさん連中だけに通じる内緒の言葉だよ」

「おやっ? 来やがったな。符丁だ。どんな意味だい?」

「火の元の不始末かい? 火を消さずにほっといたらどうなる?」

「そりゃおめえ、そこらのもんに燃え移ったりして危ねえや」

「燃え移った火を見たら、どう思う?」

「あっ、火事だ! って思うさ」

「……なんだって?」

「あ火事!」

「そう。うちはね、今月も『赤字(あかじ)』だよ」

☆   ☆   ☆

思うように落語会が開催できない中、私も独自にネット配信で頑張っています。ウェブ落語は全国どこでも楽しめます。ぜひ遊びに来てくださいね。

まだまだつらい時期は続きます。皆さんどうぞご無事でお過ごしください! もし困ったことがあったら面白い「符丁」にしてしまうと、少しだけ気持ちが軽くなるかもしれません。

立川談笑
1965年、東京都江東区で生まれる。高校時代は柔道で体を鍛え、早大法学部時代は六法全書で知識を蓄える。93年に立川談志に入門。立川談生を名乗る。96年に二ツ目昇進、2003年に談笑に改名、05年に真打ち昇進。近年は談志門下の四天王の一人に数えられる。古典落語をもとにブラックジョークを交えた改作に定評があり、十八番は「居酒屋」を改作した「イラサリマケー」など。
立川談笑、らくご「虎の穴」 記事一覧はこちら

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