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18年6月、KDDIは沖縄セルラースタジアムで開催されたプロ野球、北海道日本ハムファイターズ対福岡ソフトバンクホークスの試合で、目の前で打席に入るプロ野球選手を好きな角度から楽しむ実証実験を行った。スタジアムに設置した16台のビデオカメラを使い、リアルタイムに合成した映像を5Gで観客席のタブレット端末に配信したのだ。観戦者は端末のスクロール操作で、自分の好きな視点からプレーを見ることができた。

「こういった機能はライブパフォーマンスでも生かせるのではという期待があります」(佐野氏)

5Gにはスマホなどの通信に用いられるパブリック5Gと、特定の施設などエリアに特化したローカル5Gがある。今回、ライブ配信とeスポーツ運営という実際にイベント運営に関わる人たちに、5Gに期待することを取材したが、両者が挙げたのがローカル5Gを利用したマルチアングルの可能性だった。ライブ会場で観客のスマホに様々な映像をリアルタイムで流すことで、新しい楽しみ方を生み出すというものだ。

例えばeスポーツ。eスポーツには個人戦とチーム戦の2種類があるが、チーム戦の場合、プレーヤーに“推し”がいるというファンも少なくない。5Gが普及すれば、会場の雰囲気を楽しみながら、手元のスマホで好きなプレーヤーのゲームプレーを追いかけることもできる。

アーティストたちと連携した企画も動き始めている。KDDIは、5Gを活用した「au 5G LIVE」を準備中。第1弾としてSEKAI NO OWARIとコラボレーションしたイベントを20年7月に開催する予定だ(20年3月23日時点)。5Gが常設されたライブ会場をはじめ、サテライト会場、映像配信と5Gを駆使しながらライブ体験を拡張する試みを行うという。

「スマホで動画」は加速

5Gサービスがスタートしたことで、ニュースなどで華やかな未来像が語られることが増えたが、佐野氏によると「それらがすぐに楽しめるわけではない」という。「5Gは韓国が最も進んでいるのですが、実際に実現しているコンテンツは他の国とほぼ同じ。5Gは技術が先行して、それをどう生かすかという取り組みはこれからというのが実状です」

インフラ整備もこれからだ。「現在の5Gは、4Gのインフラの中に5Gの基地局を置いて高速データ通信を実現するという仕組みです。この仕組みではどうしても4Gの性能に足を引っ張られて、低遅延などの5Gならではの機能を実現するのが難しいのです」

現時点ではエリアも限定されている。佐野氏も最新の5G対応のスマホをテストする場合、5Gの環境がある東京スカイツリーなどへ足を運んでいるという。

そもそも対応する機種もまだ限定されているのが実状だ。人気の高いiPhoneもまだ5Gには対応していない。

「07年に始まった4Gも、最初はNTTドコモで通信速度が下り最大37.5Mbpsほどでした。しかし、現在は1Gbpsまで上がっています。5Gはあくまで10年くらい先を見越して発展していく技術と考えたほうがいいでしょう」

ただ、5Gが始まることで、スマホで動画を視聴するという習慣は確実に広がっていくと佐野氏は見ている。

「理由はスマホ料金の変化です。5Gの普及を前提に、携帯各社は使い放題の大容量プランを前面に打ち出すようになりました。使い放題を契約した人は、ギガが減ることを心配せずに、外で動画を楽しむことができます。5G本来の性能はすぐには享受できなくても、スマホで動画を視聴する文化はさらに加速していくことでしょう」

(ライター 中山洋平)

[日経エンタテインメント! 2020年6月号の記事を再構成]

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