フランク氏らは現在、自宅周辺の歩きやすさ、公共交通機関での移動、車依存、活動的な徒歩や自転車での移動といったことが、慢性疾患や感染症のリスクにどう影響するかを調べている。予備的な調査では、歩きやすく、大気汚染が少ない地域に暮らす人は慢性疾患にかかる蓋然性は低く、COVID-19による死亡リスクも下がることを示唆する結果が出ている。

「大気汚染を減らすには、公共交通機関を維持しながらも、徒歩や自転車での移動を推奨することが重要です。徒歩など活動的な移動方法なら健康にも良いでしょう」と、フランク氏。「脆弱(ぜいじゃく)な社会とは、座っている時間が長く、車に依存しきった社会です。パンデミックになったとき、最悪の状況になります」

感染予防の観点から公共交通機関を見直す

「COVID-19を意識した通勤は自宅を出る前に始まるかもしれません」と話すのはインリン・ファン氏だ。深セン、広州といった中国の都市では、路線バスや列車の座席を事前予約することが普通だ。ファン氏はさらに、オンラインやスマートフォンで料金を前払いする選択肢が加われば、自動券売機に直接触れる機会を減らせるのではないかと考えている。

「コロナ禍では、さまざまな場所で乗車制限が実施されましたが、別の方法で人々を分散させることも可能です」と述べるのはジャレット・ウォーカー氏だ。

既存の車両位置自動特定(AVL)システムや乗客流動監視システムを利用すれば、需要(乗りたい人の数)の変化に合わせてバスの経路を素早く変更できる。オーストラリア、英国などで導入されている乗客自動カウントシステムや重量センサーを使えば、列車の収容能力に関する情報をスマートフォンや駅の画面に表示できる。情報を見た人が空いている車両を選択すれば乗客を分散できる。

19年にグーグルがクラウドソーシングと交通情報を活用し、全世界200都市以上のユーザーを対象に、バスや列車の乗車率に関する情報提供を開始した。これらの情報はスマートフォンアプリと統合されており、乗客が混雑したプラットホームや車両を避けることが可能だ。ファン氏によれば、混雑する時間をコントロールするために、当局がこうしたデータを利用する例はないが、中国ではよく似た技術を道路の交通規制に使っており、このアイデアが応用される可能性は十分あると話す。

ただ、こうしたアプリを利用することは便利な半面、プライバシーがなくなることを意味する。スマートフォンに監視アプリを入れておけば、列車に同乗していた誰かがCOVID-19の検査で陽性になったという通知を受け取ることができる。アップルとグーグルはそうした接触者追跡機能を持つソフトウエアを開発しており、中国、シンガポールなどで入手可能となっている。

ファン氏は、プライバシーを進んで諦められるかは文化によって違うだろうと指摘する。韓国では新型コロナ対策に接触者追跡が機能したが、これは感染者のクレジットカード履歴や、携帯電話の位置情報を追跡できる権限が韓国政府に法律で認められているからこそ実現できた。

「プライバシーと安全のトレードオフは注目のテーマです」とファン氏は話す。「米国の一般市民に、厳格な接触者追跡を受け入れる覚悟はないと思います」

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自転車の復権
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