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花びらの模様の謎、解明あと押し 天才数学者の着想

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ナショナルジオグラフィック日本版

ミゾホオズキを研究する学者なら、花がこちらを見つめ返しているように感じることがある。この花は、サルの顔のようにも見えることから、英語圏では「モンキーフラワー」と呼ばれる。花の中央の斑点がある部分はまるで大きな口のようにも見え、蜜を目当てにやって来るハチには格好の目印だ。

「昆虫たちに『安全だからこっちへおいで』と呼びかける人懐っこい笑顔のようにも見えます」と話すのは、米カリフォルニア大学バークレー校の植物生物学者ベンジャミン・ブラックマン氏。斑点のある花びら(花弁)は、受粉を担ってくれる昆虫を惹きつけることで、子孫の繁栄に貢献しているわけだ。

「色の対比は、より効率的かつ効果的な受粉を実現しています」と、米コネチカット大学の生物学者ヤオウ・ユアン氏は説明する。

10年にわたりミゾホオズキの研究に取り組んできたユアン氏にとって、斑点のある花弁は、単に昆虫を喜ばせるものというだけではない。生物界全体に見られるパターンの一例であるというのだ。貝殻に等間隔で刻まれる細い溝、シマウマの体に走る縞など、自然界で見られるパターンは、実は同じ進化の仕組みから生み出されたものかもしれない。

最新の研究で、ユアン氏らは、ミゾホオズキの花弁に描かれた斑は、わずか2種類のタンパク質の間の「争いの結果」生じたものであることを明らかにした。一つひとつの植物細胞が持つ色素の制御をめぐって争うこれらの遺伝子は、単一の種であっても、その中に豊富な多様性を生み出せることを意味する。

この発見は、大戦時代に活躍した英国の数学者アラン・チューリングが提唱した数十年前の理論の正しさを証明したとも言える。チューリングは、自然界に見られる不思議な模様の多くに「共通のテンプレートがある」と主張していたからだ。

「色素形成のパターンは複雑ですが、自然界のいたるところで見られます」と、論文の共同執筆者であるブラックマン氏は言う。「この研究は、比較的単純なシステムが、こうした複雑さを生み出すことができる可能性を示しています」

驚くほどの多様性

自然界はパターン(模様)であふれている。この目に見える特徴は、交尾相手を引きつける、捕食者に警告する、同じ種の仲間を特定するなど、様々な生物的機能で利用されている。以前から研究者は、こうしたパターンが予測可能な数理モデルに従って生み出されていると考えていた。事実、チューリングは1950年代に、生物界に存在するパターンがどうできているかを説明する「反応拡散」モデルを提唱。これは、相反する効力を持つ2つの化学物質が、同じ生物の体内で相互に作用し合うという考えに基づいたものだ。

ただ、生物のカラフルな模様を作り出している遺伝的な仕組みを突き止めるのは容易ではない。うってつけなのがミゾホオズキだった。ミゾホオズキ属は丈夫で成長が早く、比較的単純なゲノムを持っている。このため「自然界のパターンを研究するのに最適なのです」と、米ニューヨーク州立大学ビンガムトン校でミゾホオズキを研究するアイリーン・マーティネス氏は言う。

ミゾホオズキ属では、単一の種であっても、驚くほど多様な色、形、パターンが存在する。「ミゾホオズキは強力で、検証に適したシステムを持っています」と、米ウィットマン大学でミゾホオズキを研究するアリエル・クーリー氏は述べる。氏は今回の研究に参加していない。

ユアン氏は、この植物の扱いやすさを利用して、研究室でミゾホオズキ属(Mimulus属)のミムルス・レウィシイ(Mimulus lewisii)の遺伝子変異体を大量に作り出した。その中には、斑点が入った典型的なパターンとは違って、黄色とピンクの花弁の上に、均一に赤く、舌のような模様がひとつだけあるものがあった。

先に登場したブラックマン氏も同じ頃、近縁種のミムルス・グッタトゥス(Mimulus guttatus)の突然変異体に、赤い舌のような模様を持つ野生の個体があることを見つけていた。こうした偶然も手伝って、ブラックマン氏とユアン氏は、ミゾホオズキの派手な模様の遺伝的要因を探るために力を合わせることを決めた。

色同士の争い

ユアン氏とブラックマン氏のチームは、CRISPRなどの強力な遺伝子編集ツールを用いて、赤い舌を持つミゾホオズキを研究室で分析、再設計した。そしてとうとう「舌」に現れる赤い斑点模様の元になる2つのタンパク質分子を突き止めたのである。

ミゾホオズキの細胞が赤くなるためには、アントシアニンと呼ばれる色素が大量に必要だ。アントシアニンの生産プロセスは、ある遺伝子が「アクチベーター」と呼ばれる分子を生成することでスイッチが入る。アクチベーターは遺伝情報の発現を促したり抑制したりする「調節タンパク質」の一つで、花により多くのアクチベーターを作るよう促し、色素の定着も促進させる。このプロセスに歯止めがかからなければ、花の舌のように部分全体が赤くなる。

ただアクチベーターは、自身を抑制する働きを持つ調節タンパク質「リプレッサー」を生産するきっかけにもなる。リプレッサー分子は、隣接する細胞に侵入してアクチベーターを遮断し、着色を防ぐ働きをする。最初の細胞から遠く離れた場所では、リプレッサーの量が少なくなり、アクチベーターが再び色素定着のスイッチを入れるため、花弁に新たな斑点が形成される。

こうした分子同士の争いによって斑点が生まれるという、ミゾホオズキの模様の背後にある遺伝的な仕組みは、半世紀以上前にアラン・チューリングが提案した「反応拡散モデル」を完璧に体現するものだ。

この意外なほど単純なシステムを機能させるのは、たった2種類の分子だ。そのどちらもが、色素形成のパターンを生み出すうえで重要な役割を果たしている。ミゾホオズキのアクチベーターに変異が起こると、斑点のない、地味な配色の花になる。リプレッサーに変異が起こると、過剰に赤い模様が一つだけある花になる。どちらも、植物にとってはあまりよいことではない。というのも、花にやって来て蜜を吸い、受粉をしてくれるはずのマルハナバチを混乱させてしまうからだ。

ユアン氏、ブラックマン氏、クーリー氏は皆、自然界に存在するあらゆる視覚パターンを決定するうえで、反応拡散が少なくとも部分的な役割を果たしていると考えている。「間隔を開けて花を咲かせるツタや、体全体に現れる縞模様などは、反応拡散の好例でしょう」とクーリー氏は言う。ミゾホオズキに関する今回の発見は、ほかの生物に見られるパターンの謎解明を促進させることだろう。

ミゾホオズキの謎

「今回のモデルは単純なものですが、実際の生物のシステムは、もっと複雑です」と、ユアン氏は話す。「細かい部分は、それぞれ異なっているものです」

たとえばミゾホオズキの斑点は、花びらの特定の部分にのみに現れ、ほかの場所には決して見られない。こうした斑点のない領域を研究することで、クーリー氏のチームは、斑点を特定の領域に制限している、また別のシステムの解明に取り組んでいる。

「人々ははるか昔から、ある現象を観察して考えるという行為を続けてきました。」とクーリー氏。「あまりに常軌を逸していて、合理的な説明などないように思われたとしても、研究を進めていくうちに、そこに根本的な原理があることが明らかになるのです」

次ページでも、アルゴリズムが生み出す多彩な花の模様をご覧いただこう。

(文 KATHERINE J. WU、写真 ANDRIA LO、訳 北村京子、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2020年5月15日付の記事を再構成]

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