「甘い飲料で糖尿病」どこまで正しい 栄養疫学が迫るケンブリッジ大学 医学部上級研究員 今村文昭(4)

それでは、こういったことが「宿命」なら、受け入れるしかないのだろうか。なんらかのうまい方法はないのだろうか。

「今説明したようなメタアナリシスは、すでに行われた解析結果、論文を振り返るので『後ろ向きのメタアナリシス』と考えることができます。その一方で『前向きのメタアナリシス』と呼ばれるものがあります。複数の研究グループが協力して、同じ仮説について、共通項のあるデータを持ち寄って、もっとも妥当と考えられる解析を議論して結果をまとめて論文にするというものです。そのやり方なら、出た結果によって各研究グループが独自に解釈したり論文を発表したりすることはありません。もちろん元になるコホート研究の疫学的な問題などは抱えたままになりますが、それでも、もっとも出版バイアスの少ない、統合されたエビデンスを提供できると考えられています」

最近、医学や隣接分野の研究を、事前登録する動きが広がっている。研究の結果が出てから公表するかどうか決めるのでなく、研究グループの見込みとは違う結果が出ても、その内容を封印してしまわないようにする工夫だ。それに加えて、最初から複数の研究グループ、複数のコホートなどからのデータを統合していくことを意図する「前向きのメタアナリシス」というのは、なるほど価値がありそうだ。面会時ではあまり掘り下げられなかったが、今村さんも今現在そういったプロジェクトに参加し論文も出している(※2)(※3)。

議論の本筋に戻る。なんとなくでもいいのでどんな作業をしたのかイメージした上で、論文の結論に進もう。

「比較的はっきりとした結果が出たのは、加糖飲料です。日本からのエビデンスは弱いですが、毎日、コップ1杯、250ミリリットルの加糖飲料を飲んでいる人は、妥当な数字としては平均で1.1倍ちょっと糖尿病のリスクが高かったというものです。つまり10%くらいリスクが高いのです」

加糖飲料を飲んでいる人ほど、10%リスクが高い。それをぼくたちはどう捉えればいいのだろうか。個々人の考え次第では「気にしない」こともありうると思う。しかし、少なくとも欧米の公衆衛生政策の側からは、無視し難い。

各研究で約250 mlの加糖飲料を毎日飲んでいた人と全く飲んでいなかった人の糖尿病の推定発症率の比。そしてこれらを統合(メタアナリシス)したものが最下部の数字。1より大きい数字が得られ、「飲んでいた人ほどリスクが高かったという解釈となる。なお、「95%信頼区間」は確からしさの指標で、広いものほど不確かと解釈する。それぞれのデータにばらつきがあることもよく分かるだろう。(画像提供:今村文昭)

「イギリスではこれからの10年で260万人が新たに糖尿病になると推定できるのですが、加糖飲料の消費を考え合わせて当てはめてみると、そのうち10万人ぐらいが加糖飲料のせいで発症するかもしれないということになります。つまり、加糖飲料を飲まなければ糖尿病を予防できるかもしれない人たちがそれだけいるということですね。アメリカだともっと糖尿病のリスクが高く加糖飲料の消費も多いので、今後10年のうちに200万人くらいの人たちが加糖飲料の摂取によって糖尿病になるかもしれないと推定できました。何%リスクが高いとか言うよりも、こういうふうに実社会と関係する数字を出してみると、具体的な政策などを考えやすいとされています」

糖尿病だけではなく異なる疾患でも質の高いエビデンスが出るのが待たれるものの、こうした研究や肥満に関するエビデンスをもとに、世界保健機関(WHO)は、この論文が出た翌年の2016年から「砂糖税」なるものの導入を推奨している。これはソフトドリンクに砂糖を入れる時に加算されるもので、たとえば、コカコーラを伝統的なレシピに従って砂糖を使って製造し続けると、砂糖税の分だけ値上がりすることになる。そして、イギリス政府をはじめ欧州の多くの国が、実際に「砂糖税」を導入することになった(イギリスでは2018年4月から実施)。

疫学研究による証拠をきちんと作り、その上で政策に反映させるという意味で、今村さんのMRC疫学ユニットは良い仕事をしたと評価されるべきだろう。この政策が続いた後、実際にどれくらい糖尿病や肥満を減らせたか注目したい。

一方で、ダイエット飲料とフルーツジュースはどうだろう。

「実は、人工甘味料の飲料と、フルーツジュースも正の相関、つまり見かけ上、糖尿病のリスクが高そうな結果が出ました。でも、それらは証拠が弱いと考えています」

論文を見ると、人工甘味料のソフトドリンクを飲んでいる人は8%リスクが高く、フルーツジュースを飲んでいる人は7%リスクが高いというように読める。砂糖入りのソフトドリンクよりは穏やかだが、有意な結果が読みとれる。これらのどこが「証拠が弱い」のだろうか。

「まず、人工甘味料を使ったダイエット飲料ですが、いろんな解析をしていって、太っている人ほど人工甘味料のダイエットコークなどのダイエット飲料を飲んでいる傾向があると判断しました。それを加味すると、たとえ正の相関があっても、強いエビデンスがあるとは言えないというのが結論です。これについてはウェブで読める補遺(Supplementary Material)に詳しく書きました(※4)」

この補遺は26ページにも及ぶもので、印刷される論文ではつくせない議論が存分に行われている。ダイエット飲料を飲む人に太っている人が多いとすると、肥満はそれ自体大きな糖尿病リスクなのだから、ダイエット飲料がいけないのか、肥満がいけないのか分からなくなる。その点を考慮すると「正の相関」のエビデンスは弱いということが分かった。

では、フルーツジュースの方はどうだろう。

(※2)imamura f, fretts a, marklund m, et al. plos med 15(10): e1002670
https://doi.org/10.1371/journal.pmed.1002670
(※3)del gobbo lc, imamura f, aslibekyan s, et al. ω-3 polyunsaturated fatty acid biomarkers and coronary heart disease. jama intern med. 2016;176(8):1155.
https://doi.org/10.1001/jamainternmed.2016.2925
(※4)補遺(supplementary material)pdfファイル
https://www.bmj.com/content/bmj/suppl/2015/07/21/bmj.h3576.dc1/imaf023070.ww1_default.pdf
今こそ始める学び特集
学生参加型コミュニティ 登録受付中
メールマガジン登録
注目記事
今こそ始める学び特集
学生参加型コミュニティ 登録受付中
メールマガジン登録