ウィズコロナの時代 「乗り越える人」に必要な条件『タルピオット』の石倉洋子氏×『シン・ニホン』の安宅和人氏

日本はデータ×AI系技術者の層が薄すぎる

安宅和人・慶応義塾大学環境情報学部教授、ヤフーCSO

安宅 ITなどのテクノロジーをベースにした「ニューエコノミー」は、IBMやGE、デュポンなどの歴史ある大企業から生まれたわけではなく、これまで何もなかったようなところから生まれています。一方日本は、相変わらずあらゆる才能と情熱を「オールドエコノミー」にだけ配置し続けた結果、今の状態になっています。

その上、今の戦いに必要な武器が何か、依然わかっていません。「モノづくりの延長上で戦える」「日本市場で起きていたことの延長上に、新しいものが生まれるはず」という発想を全然変えられていない。

例えば、明らかにソフトウェア系、データやAI系の技術が世の中を変えているのに、日本はこれらの分野の技術者の層がとても薄い上、増やす努力は企業と各自の生存がかかっているとは思えないほど遅い。モノづくりとソフトの、両方の翼が未来をつくるんですが、片翼の筋力が弱すぎるんです。

石倉 イスラエルは、そこを戦略的に進めていて、国を挙げて科学技術を推進しています。イスラエルは皆兵制なのですが、国防軍のタルピオットというテクノロジーリーダーの育成プログラムでは、全高校生から選りすぐった50人を、大学と協力して徹底的に磨き上げます。そこから、サイバーセキュリティーやコンピュータービジョン、自動運転、AIやデータサイエンスの研究者や起業家がたくさん生まれています。

彼ら彼女らは、起業家としてどんどん世界で勝負に挑んでいます。新しい戦い方や新しい試合のルールを、生み出す側に回っている。

一方で日本は、変化を生み出す側にいないばかりか、「戦い方、試合のルールが変わったのに気付いていない」ということですよね。

安宅 残念ながらそうですね。変化は避けられないのに、自分たちだけは変化しなくてよいことを前提に考えてしまう。都合よく「見たくないものを見ないフリ」をしているとしか思えません。本当は見えているのに、みんなが「見えないことにしている」から、自分も「見えないフリ」をしているのかもしれませんね。

石倉 「ほかの人がそうだから」と、自分で考えず、思考停止しているわけです。

コロナで外出自粛になり、考える時間ができたのはいいことだと思います。普段、ゆっくり考える時間もなく、「周りがこうだから」と流されてしまう人でも、今は「これでいいのか?」と考えざるを得ません。これまで、見えないことにしていたものに、目を向けるきっかけになるといいのですが。

日本以外は「違いを武器にして戦う」世界になっている

安宅 石倉さんの『タルピオット』で印象に残ったのが、ユダヤ教の子どもたちは、12、3歳で迎えるユダヤ教の成人式のときに、大人から「自分の考えを持ちなさい。そして親や世間の人はもちろん、たとえ神がそれを“間違っている”と言ったとしても、自分の意見は貫き通さなければならない」と言われるという部分です。驚くべき教えですよね。思わずページを折って印をつけちゃった(笑)。

これは日本と真逆です。日本では絶対こんなことは子どもに言いません。自分の考えを持ち、それを貫けだなんてとんでもない。周りを見て、ほかの人たちの流れについていかなきゃならないんですから。

石倉 安宅さんは『シン・ニホン』の中で、新しいゲームのカギを握るのは、みんなと同じではない人、みんなが目指さない分野で突出している“ヤバイ人”と書いていますが、そこはまさに、タルピオットが育成しようとしているテクノロジーリーダーの素養と重なるところがあります。

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